大阪の単身赴任生活も早7か月が過ぎようとしている。 当初は,風俗・文化等の違いに違和感を覚えたが,今や大阪にどっぷりと浸っている。大阪は,一時間もあれば,京都・神戸・奈良・和歌山などに行くことができ,これまでの休日は,ほとんど観光地巡りに明け暮れ,月一回の製粉所の蕎麦打ち教室以外蕎麦を打つ余裕もなかった。しかし,新蕎麦の季節になると,蕎麦が恋しくなるようで・・・。
一つ目は,砂場発祥の碑である。 8月のある日,ふと大坂で発祥した砂場の地に行って見ようと思い,かんかんと照りつける太陽の下,汗を拭き拭きその場所へ赴いた。
その碑は,どこにでもありそうな町の小さな公園の片隅に立っていた。それほど古い碑ではないようだ。公園の周囲は,大通りに面した西側以外は,落ち着いた住宅やビルが立ち並んでいた。かつて遊郭があり,活気を帯びていたという砂場の風景は思い描けない。しかし,公園のはずれの一角に一軒の蕎麦屋が佇んでいたのには,なんとなく安堵感を覚えた。
10月21日(日),地下鉄・私鉄を乗り換え,人づてに店を探し,やっと蕎麦カフェ「空庵」に辿りついたのは,12時をかなり回っていた。
店は,住宅地の中にあり,自宅をそのまま店にしており,庭には色鮮やかな植木などが配置され,落ち着いた雰囲気であった。門には,「新蕎麦祭り」の看板が立てかけられていた。
呼び出しベルを押すと,元気な声で返事があった。「石臼の会のOさんの紹介で来ました。」と伝えると,「それは,それは。」と迎え入れてくれた。 店は,まさに民家で1階のリビングルームと奥の座敷を利用して,四人掛けのテーブルとサンデッキの二人掛けテーブルが置かれ,家庭的な雰囲気であった。 ビールを注文し,庭の景色を眺めながら,女性の店主と会話した。
店主は,小学校の先生を退職した後,一年間,東京青山の江戸蕎麦生粉打ち会で蕎麦打ちを学んだそうである。また,三年前には,Oさんに連れられて石臼の会の調布蕎麦打ちの会にも出席されたそうである。 ビールの肴に,名前は失念したが,大阪特有の野菜とがんもの煮びだしと丹波笹山の黒豆の枝豆が出された。珍しく,大変おいしかった。
そうこうするうち,生粉打ち蕎麦のざるが出てきた。さすが江戸蕎麦生粉打ち会の下で修行してきた生粉打ち蕎麦である。店主は,「切りが難しい。細くなったり,太くなったりして・・・」と語ったが,私にとってはすばらしい蕎麦である。特に生粉打ちなのに,長く繋がっているのには感心した。店を構えるには,相当の努力を積み重ねたのであろう。修行中は,一年毎日蕎麦を打っていたそうである。
蕎麦を食べた後,しばらくすると近所から来たと思われる老夫婦とその娘夫婦と思われる客が来店し,四人掛けのテーブルに座り,雑談を交わしていた。 私は,コーヒーを注文した。ほんの少し苦みのあるコーヒーを飲みながら,店内のハーブやピアノなどの調度品や庭の草木などを眺めていた。心地よい。まさに隠れ家の蕎麦屋である。
コーヒーを飲み終えた後,辞去しようとしたが,店主は,「駅までの道が分かりずらいので・・・」と言い,ありがたいことに他の客を残して途中まで道案内をしてくれた。(たけじん)
蕎麦カフェ「空庵」
■住所大阪府吹田市和泉町4-33-6
■電話06-6190-5310