ソバスキーさまから、「この前、傘亭に行ったら、店を閉めるというような事が書いてあった。」と伺った。「えぇ〜っ、本当ですかっ?」また伺おうと思いつつ、ずぅ〜〜っと間があいてしまったし、これはぁ〜今一度伺わなくては、後悔する。
お店に入ると、日本酒の品書きの直ぐ下に、「そば店の経営を希望する方 安価にて当店を譲渡いたします。希望する方は17:00以後電話連絡のうえ来店にて詳細をお話しします。」(=訪問した10月中旬の状況です。)とあった。ご主人と、あれやこれや話していると、「辞める日は、もぅ決めているんですよ。12月●●日くらいには……、……、……。」と。そうなんだぁ…。ご主人は、既に決まっている事として、きっぱりと話された。なんと寂しい。
そうであるなら尚更の事、傘亭さんをしっかりと楽しませて頂かなくては。つまり昼酒っ!なのだ。前回伺った時も、確か筆頭呑兵衛組頭と一緒だったものだから、美味しい肴と日本酒をゆっくりたっぷり飲んだ。今回もやっぱり筆頭呑兵衛組頭と一緒ということは…だ。これら全てを必ず覚えていなくては。
■■蕎麦前
■■
まず、カウンター席を横に詰めてくださったご常連らしき方の料理の進み具合を鑑みて、注文の間合いを計らねばならない。本当は“ねばならない”ってことも無いのだけれど――この店では何故かそういう空気になり、ご主人の所作の“間合い”を楽しむことになる。その間、店内に張り巡らされている説明書き、品書きを読み返し、「何にしようかなぁ〜」と今日の展開を組み立ててみるのだ。
まず、品書きの「神亀」の文字が目に入った。以前、行田の神亀酒造にお邪魔した折、蔵元が「重い酒から、軽い酒に向かって飲んでいく」と、仰っていたことを急に思い出した。そうだ今日は、最初っから日本酒は、埼玉「神亀-純米」¥800.-を燗にしてもらおう。それに、合わせるのは、大好きな一品「もろみ豆腐」。この組み合わせは、軽いウォーミングアップなしに、ズンといきなり重たいところから、始める感じではないだろうかぁ。今日の前のめりな気持ちが表れている?ような気になり、大いに満足す。
もろみ豆腐¥600.-
品書きには、「九州 珍味 美味です。熟成されています。」とあった。原発事故以来、品書きに全ての産地を事細かに書くことにしたとか。
しっかり熟成がすすんでおり、ねっとりとした食感に深い旨み。あぁ〜やっぱり、美味しい!これで、3合くらい飲めちゃいそう。つい先日、あの発酵学の小泉武夫さんは講演会で、平家の落人伝説とともに、九州は熊本の五木村あたりに伝わるこの発酵保存食のことを、熱く語っていた。そんなタイミングでもあるし、元々日本酒を筆頭に発酵物が大の好物だから、「熟成」の文字に激しく反応し、どうしても抗えないし。
神亀一口グビッ。やはり!ほらぁ。熟成した重みのある神亀とは、もぅ〜〜ぴったり。思わず舌鼓。頬っぺた落ちるぅ。
次の酒は、和歌山 黒牛-純米¥700.-
ここ十数年すっかり名前の大きくなった「黒牛」は勿論、私は同じ名手酒蔵「野路の菊」のどっしり感が大好き。「黒牛」を選んだのは、目の前に飾られた一輪挿しの菊からのこんな連想でもある。
どんどん酒器が変わって…って、酒がかわるからだけれど…次は、藤岡酒造「蒼空」-純米¥800.-。こっくりと米の旨みを感じるけれど、酒名の蒼い空の通りに、後口はすっきり。伏見の酒と言えば、女酒の代名詞だけれど、このすぅ〜っとひいていく爽やかさは、まさしく優しく素敵な女性をイメージさせる。(まるで私のよう…、あれ?違う?、失礼まだ酔ってる。)
卵焼¥800.-(混雑時は、頼めない)
このジューシーで、柔らかくって軽やかな卵焼に、たっぷりの大根おろし。出汁の染みたアスパラガス。あぁ〜ホッとする。
ふわっと軽いこの卵で、穏やかでふんわり優しい丸みのある宮城「綿屋-純米」¥800.-を、キュッと。合うぅ〜。お互いが優しく寄り添って、美味しさを増す。
鳥取「鷹勇-純米」¥700.-
調子の出てきた私は、この大谷酒造の七割磨きあたりの「強力」をガッツリと燗に…と、心の底から欲っしたけれど、今日のテーマ(?って程の事もないですな)“重い→軽い”の流れを大きく逆行してしまうので、ちょっと抑えて…やや戻り?っていうか…「強力」が品書きになかったし。つまりでも、テーマに沿うなら「神亀」の後に「鷹勇」だったような。うん?
いや。
神亀→鷹勇→東北泉→菊姫→黒牛→出羽桜→綿屋→蒼空→梅錦(吟醸)だったな。いやいや、菊姫と東北泉が逆かぁ。ともあれ、本日はこれら純米酒を梅錦以外は全部、燗にしていただきましたぁ。あれ、何か1種類足りない。あっ、山形は酒田の上喜元だ。まぁ〜最初は4合くらいで終わるつもりだったし、途中から、行きつ戻りつしてしまったから…。
たまぁ〜にしか訪れない気まぐれな客を、傘亭ご主人は覚えていないだろうけれど、伺えば何時でも変わらずアレコレをとっぷりとお話くださる。本当に美味しいソバの味わい方。牡丹品種について。日本で一番美味しいカレーの話やら、宿泊した中で一番居心地のよいホテルの話やら、宗教論やら、凄い量の資料やスクラップを基にした原発のあれこれやら、そして今日もやっぱり自然食の深い話を経巡り、古今東西にどんどん移り変わって、間があいてしまった時間を遡り、○昔前の初めて伺った頃と同じ、ホンの少し若々しい気持ちになる。傘亭ご主人の安全で美味しい昼酒蕎麦屋への変わらぬ情熱。けれども、実際には皆がそれぞれに時間を重ね、歳を取った。それにしても、こんな風に蕎麦屋さんを楽しみ始めてから、成長したのだろうか?私は。どんより停滞しているではないか、だめだなぁ。
そ、でも、だから、取りあえず、
食べたものの写真を並べてゆこう。(随分と、撮り忘れがあるやも)
抜天ぷら(海老2、付野菜)¥1300.-
下に見える三角の小皿には、三種類の塩。
こちらの天ぷらの衣は、いわゆる昔からの蕎麦屋の天ぷら衣よりは薄く軽いけれど、天ぷら専門店よりは、ほんの少し厚い。以前ご主人も「ちょうど中間を狙っている。」と言っていた。それには理由があって、昔からの蕎麦屋で「抜き」を頼むということは、ジュワッと衣に蕎麦汁が染みて、天ぷらが美味しく食べられると同時に、蕎麦汁に天ぷらの油が入ってコクのある旨みが生まれるという筋書きがある。天ぷらと汁、両方が両方とも美味しい酒のあてに、と。けれども、こちらでは吟味した天ぷらの素材を、風味の違う塩で楽しむので、衣を必要以上に厚くしない。(あれ?でも、お願いすれば汁も出してくれた事が…あったような記憶も…ないでもないような気もしてきたなぁ…。あれ?どっちだ!って。)
右上:蕎麦掻(値段、忘れました)、左上・下の立派なワサビ&大根おろし、青ネギが先に出てきて、上質で美味しい焼き海苔を「巻いて食べても…」と、おまけしてくれた。至れり尽くせり、とは正にこの事。本当に有難うございます。
右下:径山寺味噌(きんざんじみそ・唯一本物・和歌山、と書いてあり)¥500.-
「一緒に食べて、美味しいですよ」と、瑞々しいきゅうりを、何本も付けてくれたのだけれど、話に夢中になって、つい写真を撮る前に、パクパクっと。
「美味しいから食べて」と-おまけ、昆布。
上品で深い旨み。当然、日本酒に凄〜く合う。
次なる、おまけは、京都の白みそをつかった蕎麦焼味噌。そりゃぁ〜美味しいです。
■■蕎麦とうどん
■■
こんな時になって、初めて食べる傘亭の「うどん」
汁の色は、蕎麦汁より薄〜く、昆布の香りも。薬味は、青ねぎとおろし生姜。
麺は、普通にイメージするうどんよりも、ずっと細打ちで少し黄色っぽく、しっかりとした小麦の風味がある。麺の表面がとてもすべらかで、歯にも感じるこのピチピチとした食感は、キュゥッと締まった確かなコシから生まれているのだろう。
二色そば(せいろと芥子)¥1300.-
薬味に、山形の辛味大根「ピリカリ」のおろし。
せいろからは、穀物の香り、しっかりとしたソバの旨みがある。今となってはなかなか食べる機会のない(収量が少ないから、希少と言ってもいいかも)、なんと北海道・牡丹ソバだとのこと。特別に栽培農家から分けてもらっているそうだ。こんなルートを、今後誰か受け継ぐのだろうか…。
美しい芥子きりには、芥子のつぶつぶが沢山見て取れて、香ばしいコクのある細打ち麺に仕上がっている。
■■蕎麦後
■■
頃合いを見計らって、良く熟れた柿をまるまる1個/人、そして、巨峰を房半分ほども出してくれた。最後に季節のフルーツを出してくださるけれど、今日はまた、量もたっぷり。
有難うございました。
■住所新宿区高田馬場3-33-5■電話03-3364-5758 ■営業時間12:10〜蕎麦の売り切れるまで。(夕方には、なくなります)■定休日金曜(祝日の場合は営業)
posted by 笑門来福 at 14:29| 東京 ☀|
Comment(6)
|
TrackBack(0)
|
新宿・豊島・渋谷区
|
|