「富岡製糸場 世界遺産へ」のニュースが伝えられた日。江戸ソバリエ・ルシック伊嶋みのるさんが主宰する「古民家蕎麦屋を愛する会」に参加させていただいた。第4回目の今日は、光が丘「桔梗家」。埼玉県小川町にあった築150年養蚕農家の立派な建物を、古民家再生が専門の降幡建築事務所に依頼して光が丘に移築し、平成7年に蕎麦屋として開業したお店だ。なぁ〜んて素敵でタイムリーな養蚕繋がり。
伊嶋みのるさんが描いた「桔梗家」
訪問翌朝、新聞を読んでいて更にびっくり。富岡製糸場世界遺産群の中で高山長五郎が養蚕飼育法「清温育」を農家指導した「養蚕改良高山社」が、桔梗家さんの建物と、外観がそっくりなことに気が付いた。わぁ!すごい!
左:高山社跡 右:光が丘「桔梗家」前で、蚕の恩恵に預かった和服姿も。
どちらも、どっしりとした総2階。1階部分は陽光の入るガラス戸、格子のある2階部分に蚕室があった。その上の屋根に付けられた3つの天窓から、蚕室に清涼な外気を取り入れたり、天窓を閉じて下階の囲炉裏からの暖気を留めたり、蚕の生育環境を考え抜いた作りになっているそうだ。今では桔梗家さんになっている埼玉県小川町にあった養蚕農家も、高山長五郎の「清温育」で、蚕と向き合っていたのだろうか。今まで以上に養蚕や絹に興味を持った。あぁ〜高山社跡に、富岡製糸場に、行ってみたい。
それにしても、ほんとに片倉工業って、かっこいいなぁ!
■■蕎麦前
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蕎麦前の品書きは、厳選?されている。種類は…す、少ない、けれど安価。おつまみが、小鉢200円(この日は、葉山葵醤油漬け)、そばどうふ300円、つけもの盛合せ鉢450円、以上全3品。なので全部注文する。酒は、有名どころ日本酒が9種とキリンビール1番搾り。明るい窓から眺める、どこかのんびりとした庭や、どっしり広々とした座敷の風情もつまみにしよう。
左上:小鉢
シャキシャキとした歯ごたえの葉山葵醤油漬けは、爽やかな香でピリリと刺激の残るフレッシュな出来栄え。とても美味しい。以前伊豆蕎麦紀行の時に、葉山葵を土産に購入し、張り切って醤油漬けを自作したことがあるけれど、こうはならなかったなぁ。
右上:つけもの盛合せ鉢
色鮮やかに美しく漬かった漬物。熱々の白飯が欲しくなっちゃう。
下中央:そばどうふ
ソバ粉でできた蕎麦掻きを冷やし固めたタイプのものを想像していたら、さにあらず。普通に大豆の豆腐、木綿とうふの中に、粗挽きというかぁ〜ざらりと挽いたソバの抜き実が、つぶつぶ ざらざらと入っており、ソバの味と大豆の味がしっくりと相まって美味しい。トッピングされた生姜と、敷かれた紫蘇も爽やかで、ちょっぴり濃いめの汁と一緒にいただく。次に来たときも、また是非の一品。
ビールを、どっしりとした素焼きのゴブレットに注いで楽しんだ。
■■蕎麦
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天ざるそば¥1780.-
あぁ〜えぇ〜っと、つまみが漬物と豆腐しかなくても、これで飲めましたなぁ。天つゆと共に供される天ぷらも、添えられた海苔や漬物も、それから自分で卸す山葵も、酒のあてになるではないか。次回はそうしましょ。
写真が下手糞でブレブレで載せられないけれど、同じテーブルのうさこさんのオーダーした 道楽そば¥1050.-は、きのこ類がたっぷり入った温かい蕎麦。きのこでとろみの付いた汁の色が濃く、見た目 関東の甘汁だぞぉ〜という主張が感じられた。
厨房仕事が店主1人だということで、営業時間内に直接お話しを伺うことはできない。武蔵野の面影残る光が丘界隈を紹介した日本経済新聞によれば、「そば本来の素朴な風味を逃がさないよう、会津産のソバを自家製粉している」と、桔梗家店主 鳥海隆守さんの言葉が残る。鳥海家は、会津喜多方にソバ畑も所有しているという情報も。
ともあれ、今日のソバ粉は、「会津のかおり」を、9:1で打ったものだと教えて貰った。
また、なんでも桔梗家さんの蕎麦の師匠は、第6回千葉県そば大学講座で「プロの蕎麦打ちに学ぶ」として木鉢作業(2分割→4分割して加水量を、確実に決める)の秘儀?をサクサクと披露したあの「あいづ桐屋」唐橋宏さんらしい。桔梗家玄関すぐ右手にあるガラス戸に囲まれた広〜いひろ〜〜〜い蕎麦打ち場・製粉スペースを見たときに、あぁ〜一人でこの場所全部を使えるならば、(同様に第5回千葉県そば大学講座「プロの蕎麦打ちに学ぶ」として素晴らしいのし技を披露した 磐梯そば道場主宰長谷川徹さんのような)会津流の丸のしでも、のせちゃうかもねぇ〜。と、妄想してしまった。
さて、この店内で毎日行われる会津流の蕎麦打ちがどんなものなのか、追い打ちなど目撃できる機会に恵まれる日は、来るかなぁ〜来ないだろうなぁ〜。
■■雑感
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「古民家蕎麦屋を愛する会」主宰伊嶋みのるさんがガイドさんのように、この訪問先のあちこちを案内してくださった。全体の坪数も聞いて「へぇ〜」と言ったくせに、余りの数の大きさに覚えられなかった。敷地内の光が丘美術館や陶芸教室「飯綱山陶房」のことも、「へぇ〜」「へぇ〜」と。都心から北西に僅か15キロばかりの都内でなく、少し遠いところへ小旅行をしたような気分を味わえたこの桔梗家訪問で、5年寿命が延びたようにも感じられた。時間がゆっくりと流れているかのような、どっしりとした日本家屋に、そして蕎麦が繋いでくれる方々との繋がりの有難さに、心癒された。
庭の大きなしだれ桜の季節にでも、是非また伺いたい。
ご一緒させて頂きました皆さまに、心よりの感謝。
有難うございました。
■住所練馬区田柄5-27-25■電話03-5241-9582■営業時間11:00〜15:00/16:00〜18:00■定休日月、第1・3火■アクセス都営大江戸線光が丘駅徒歩5分■完全禁煙
光が丘美術館HP