2008年05月03日

蕎麦の「えぐみ」に関する総括

1 蕎麦の「えぐみ」に対する疑問の発端
 
平成18年10月,文京区のとある蕎麦屋で食べた十割の「自宅新碾き蒸篭」は ,ぼそぼそ感があるとともに,「えぐみ」様のものが非常に強かった。
 
これまで食した蕎麦の中でも,食後にこれほどまでに口の中に渋みが残る蕎麦を食べたことはなかった。その後も,この「えぐみ」様のものが気になり,平成19年1月,再度赴き,同じ蕎麦を注文したが,前回ほどの強烈な印象はなかった。
   
白山 藪蔦.JPG 藪蔦3.JPG左:店構え 右:店内に石臼がある。

藪蔦4.JPG 白山藪蔦2.JPG 平成20.4.29 藪蔦3回目 002.jpg
   1回目            2回目          3回目

 この状況を平成19年1月,江戸ソバリエ「石臼の会」ブログに掲載したところ,石臼の会内でえらい反響となり,「えぐみ」議論が盛りあがった。
(参考)
http://edosobalier-ishiusu.seesaa.net/category/1523150-1.htmlの質問箱その2

2「えぐみ」に対する当初の見解
 
そのブログに掲載した際の私の見解の要旨は,次のとおりである。「・・・一般的に,三番粉や四番粉は甘皮を含むので黒っぽくなるが,この甘皮など殻に近い部分は栄養が豊富で香りが高いが,渋みがあり,ぼそぼそとし,食感が悪くなる。蕎麦のえぐみは,この甘皮に由来するものだと言えよう。
 
それでは,甘皮とはどこの部分を指すのであろうか。・・・蕎麦の種子は外側から殻,アリューロン層(ぬか),種皮,胚乳,胚芽の順になっている・・・書物によると,新そばの季節に緑色になる種皮が甘皮であるとしているものが多い。
 
しかし,甘皮をたっぷり使って真っ黒い蕎麦を打っているある蕎麦屋の店主に言わせると「種皮は胚乳を覆っているもので,甘皮ではない。栗の渋皮は実の方につくが,蕎麦の甘皮は殻の方につく。香りはこの甘皮から出る。当店は,三番粉と甘皮を混ぜているので,香りが良いが,色は黒い蕎麦になる。」と語っていた。ここの黒い蕎麦には,えぐみはなかった。
 
どちらにしても蕎麦のえぐみが甘皮からくるとすれば,玄蕎麦あるいは丸抜きの挽きぐるみで打った蕎麦は,すべてえぐみのある蕎麦になるはずなのに,そうでない蕎麦もある。これはいったいどういうことなのか。
 
種皮が甘皮なのか,殻の内側が甘皮なのか,殻・アリューロン層・種皮全体を甘皮と称するのか。甘皮とえぐみの関係について,よくわからないことばかりである。」
 
3 ブログ記事に対するコメント(抜粋)
@ 蕎麦の品種にもよるが,えぐみはでんぷん由来ではなく,たんぱく質由来であるので,胚乳廻りについている「へた」のようなものによるものではないかと考える。
 
「へた」とは,栄養分を運んできて成熟して切れた所であり,蕎麦の抜実でいうとガクがついていた周辺の茶色いものである。(highland)
A 蕎麦の品種や個体差があるが,外皮(果皮)から渋〜〜い味がしているのかと思っていた。甘皮からは甘味や旨味を感じる。
 
黒い蕎麦は丸抜き+玄蕎麦で,玄蕎麦混入率が多いので,えぐみがあり,ボソボソ感もあると思っていた。
 
昔は玄蕎麦のまま石臼で挽き,篩でふるって,殻を取り除いていたので,本当の挽きぐるみであるが,今は,普通「挽きぐるみ」と言っても,丸抜きにしたものを挽いている。あるいは,玄蕎麦を僅かに混ぜて挽くから,この玄蕎麦のところにエグさの元があると想像していた。
 
昨年,新蕎麦の頃,ある蕎麦屋で,今は作っていないレアな長野の古い品種(品種名不詳)の痩せた玄蕎麦を20粒くらい貰い,そのまま噛んでみたら,これがもぅ〜〜エグかった。その前に,少し違う丸抜きを50粒くらいモグモグ食べた時は,蕎麦の香りと旨味が口いっぱいに広がりえぐみは皆無であった。
 
品種の違いなのか,歴然と違っていたので,外皮(果皮)から渋みがでているのだろうと思った訳である。(笑門来福) 

4 石臼の会例会での検証
 
平成19年3月18日,蕎麦打ちの例会で,蕎麦の「えぐみ」の検証をすることになった。この時の状況の記事をブログに掲載したが,その要旨は次のとおりである。
 
「道場のM先生が,事前に金砂郷産玄蕎麦を二八で打ち,会員諸氏はそれぞれ幌加内産の十割,北海道産を主体とした混合粉の二八,混合粉に甘皮50グラムを加えた甘皮入り二八などを打った。その後,蕎麦の食べ比べ,味比べをして種類を当てるとともに,「えぐみ」があるかないかを検証することになった。蕎麦の「えぐみ」は甘皮に由来するのではないかとブログで問題提起していたところ,今回の食べ比べにおいては,すべての蕎麦に「えぐみ」はなかった。
 
仮に「えぐみ」が甘皮に由来するとすれば,玄蕎麦挽きぐるみあるいは甘皮入りであれば,当然に「えぐみ」があることになるはずであるが,それがなかった。ということは,「えぐみ」は甘皮に由来するものではないことになる。
 
以前「健康と味」について研究されていたK会員は,「味の中には渋みはあるが,えぐみという味はない。渋み=えぐみではない。えぐみはおいしいという味の範疇にない。」と語られた。 
 
また,M先生は,「ブログを見ると,えぐみのあった蕎麦を再度食べたところ,二回目はえぐみはなかったとのことからすると,おそらく蕎麦の種類によるものではないかと思われる。なお,蕎麦の成分は,胚乳53%,胚芽16%,甘皮12%,外殻19%であり,これを挽きぐるみにした場合,相当の量の外殻が混入されることになる。これがえぐみの正体かも知れない。」との見解であった。
 
今回は「えぐみ」の正体を明確にすることはできなかった。」
(参考) 
http://edosobalier-ishiusu.seesaa.net/article/36467546.html#more 

5 ブログ記事に対するコメント(抜粋)
@ 大辞林では「えぐみ〔ゑぐ〕【刳味】あくが強くて,舌やのどがひりひりとするような感じや味」とあるが,自分の思っているえぐみの印象とはちょっと違う感じがする。ひりひりというのは辛い印象に繋がるが,どちらかというと渋みを伴う苦味という感じか。柿の渋みと違う絶えがたい味覚ではなくて,場合によっては味わいに必要な味覚で,特に春の山菜の味覚に多出する味の表現という印象である。(蕎麦侍)
A 
新国語辞典,広辞苑にも同じ様に「あく」が強く,のどをいらいら刺激する味とある。蕎麦に「あく」が有るか如何か分からないが,季節の山菜等には「あく」があって,あく抜きをして食べている
 掘りたての竹の子等は刺身で食べるが,時間が経つとえぐみが出て刺身にはならない。また,同じ竹の子でも部位により,「あく」の強さも違うようである。
 
果たして蕎麦のえぐみは外殻,甘皮,発芽部分に有るのか,保管状態にあるのか。(龍成)
B    M先生から,「ある蕎麦の雑誌の蕎麦機具の広告の説明の中に『玄蕎麦の保管をきちんとしておかないと,えぐみや苦味が出てくる・・・』と書かれていたとの説明があった。玄蕎麦の保管状況によってえぐみが発生するということに合点がいった。本来,蕎麦に強烈なえぐみはあってはならないものであるが,ほのかな「えぐみ」はあってもいいのではないかと思っているが・・・ということは,私が考えている「えぐみ」と一般に言われている「えぐみ」とは違うのか。(たけじん)
C 玄蕎麦の保管によって,えぐみが生じるとして,どこの部分にそのえぐみが発生しているのか?実全体か?それとも一部分?何かの成分が時間やある条件で変化していくということなのか。何という成分なのか?(笑門来福) 

6 自宅での検証
 
その後,冷蔵庫の野菜室に1〜2月保存していたM先生から戴いた玄蕎麦を自前の小さな石臼で挽いて,挽きぐるみの蕎麦を打ってみた。細かい篩いがなかったので,本当の粗挽き蕎麦になってしまったが,その蕎麦に「えぐみ」はまったくなかった。
 
保存状態が良い場合は,「えぐみ」はないことが分かった。後は,保存状態が悪い玄蕎麦を打ってみて,「えぐみ」が出るか否かを検証する必要があるが,もったいないので今のところ,その実験は実施していない。
 

7 みたび「自宅新碾き蒸篭」を食べる 
 
最近,企画担当K氏から,「蕎麦のえぐみ」の総括をして欲しいとの要望があったのを契機に,平成20年4月29日,みたびその蕎麦屋へ赴き,「自宅新碾き蒸篭」を注文した。今回も,いつのものとおりぼそぼそ感はあったものの,甘い感じがし,非常においしいと感じた。当然に,「えぐみ」はなかった。
 
店主のおばさんに「過去に同じ蕎麦を食べたことがあったが,その際は口の中にえぐみというか渋みが一杯に広がったが,今日のは,非常においしかった。」と語ったところ,おばさんは「当店は,毎日早朝に玄蕎麦を挽いていますが,当時は玄蕎麦の管理が不十分ではなかったのではないかと思います。充分注意しているつもりですが,湿気などがある場合には,えぐみが出てくるのではないでしょうか。申しわけありません。」と申し訳なさそうに謝っていた。
 
そこで,「今日のは,おいしかったですよ。」と申し向けたところ,「安心しました。今後は気をつけますので,ご贔屓に」と喜んでいた
 
ここの店は,おばさんとその娘さんの二人でやっているようで,かなり年季の入った古びた作りで,それほど繁盛しているようには見受けられなかったが,かたくなに江戸の蕎麦打ちの方法を受け継いでいるという印象を受けた。
 
8 蕎麦の「えぐみ」再考
 
蕎麦侍さんが言うように, 山菜などにみられる「えぐみ」(あく) は,少量なら風情があるが,大量になると問題である。
 
そこで, インターネットで「えぐみ」の科学的分析をしている内容の記事(ウィキぺディアなど)を検索をしてみた。以下,その記事の概要を羅列する。
    「えぐみ」の原因物質は「シュウ酸(蓚酸)」で,イタドリなどタデ科植物に多く含まれる。また,メロン,パイナップルなどの瓜科植物や竹の子,ほうれん草などにもある。
    「シュウ酸」は,肌に付くと激しい痒みを生じるが,それは,シュウ酸カルシウムの針状結晶が肌に刺さって刺激を受ける為である。
    喉に負担がかかり,アレルギー体質の人には,アナフィラキシィショックを起こす場合もあり,危険である。 
    蕎麦は,周囲の雑草の成長を阻害する(アレロパシー活性)があるが,その植物の成長を阻害する要因は「ルチン」である。
 
「ルチン」は,毛細血管を丈夫にするという効能などがある反面,不純物としてアレルギーの原因物質も含まれている。

 
そういえば,蕎麦を打つ人や蕎麦好きの人が,今まではなんともなかったのに,最近になって蕎麦アレルギーになって,蕎麦打ちをやめたり,蕎麦を食べられなくなったという話を立て続けに聞いたことがある。
 
科学的分析の記事をみると,蕎麦に含まれるシュウ酸やルチンに含まれる蛋白質のアレルゲンが「えぐみ」の正体と言えなくはないと考える。(これは,あくまでも個人的見解である。)
 
体調が悪いときなどに,アレルゲンを大量に食べるとアレルギー症状が起きやすいとのことなので,そのような時には,「えぐみ」がきつい蕎麦は食べないようにしたい。
 
蕎麦好きが,蕎麦を食べられなくなるのでは悲しすぎる・・・。


9 蕎麦の「えぐみ」に対する結論
 
私は,蕎麦の研究家でも何でもなく,ただ単に蕎麦好きである。したがって,,この場で,結論めいたことを出すことは不可能である。
 
蕎麦好きの方々が,この記事を参考にして,新たな見解等を出していただければ幸いである。
以上

posted by たけじん at 23:19| 東京 ☁| Comment(3) | TrackBack(0) | ■「脳学」レポート&著作物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>シュウ酸やルチンに含まれる蛋白質のアレルゲンが「えぐみ」の正体と言えなくはないと考える

物凄く、納得します。
ソバはイタドリと同じタデ科ですし、
ルチンの豊富な韃靼ソバが持つあの苦味も
感覚的に「えぐみ」と近い感じがします。
完全な正解はわかりませんが、一歩近づいたように気がします。
Posted by 笑門来福 at 2008年05月04日 10:26
記事 8 のシュウ酸やルチンが「えぐみ」の発生源であり、普段は気に成らないほど微量なものが、保管状態等により酸化されて「えぐみ」を強く感じるようになるのではないか、記事7でお蕎麦屋さんのおばさん?女将さん? がそれを物語っている様に思います。
Posted by 龍成 at 2008年05月05日 21:19
 血圧が高い私にとっては,「ルチン」を悪者にはしたくないので,「ルチンに含まれる蛋白質のアレルゲン」と書きました。科学的な分析記事によると「ルチンには,不純物として,ソバアレルギーの原因蛋白質が含まれる可能性がある。」と書いてあります。「ルチン」そのものがアレルゲンではないと思います。
Posted by たけじん at 2008年05月06日 00:41
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