浅草には、美味しい蕎麦を食べさせてくれる蕎麦屋が何件もある。その中でもホッと一息入れたいときは、ここ「蕎上人」に行きたい。隅田川駒形橋のたもとで、季節の変わり蕎麦と下町の人情味豊かな花番さんが迎えてくれるとっておきの蕎麦屋。桜の蕾がまだ固い頃、一足先に春の香り「桜切り蕎麦」を楽しみに伺った。
店主平沼孝之さんは、平成元年2月に現在のお店を「浅草 一茶庵」として開業した。しかし師匠である「一茶庵」片倉氏が亡くなったのを機に、「一茶庵」の店名を返上。「駒形 蕎上人」に変更するとともに、蕎麦とうどんの教室(プロ養成が主)を店舗と同じビル3Fに併設するに至った。著作には「浅草人生そば道場」ごま書房などがある。
さて「蕎上人」は、当地で蕎麦屋を開業してまだ20年。老舗というには、まだまだ日が浅い。ところが、ここには既に老舗の空気が漂っている。ご主人や花番さんと話をするまでは、失礼ながらその理由が、宮大工に仕上げさせた内装に負うところが大きいのではと想像していた。これが浅はかな考えだと気がつくまで、私のような者でもそう時間はかからない。“水準の高い蕎麦を、気持ち良くお客に食べてもらう。”この一口で言えば当たり前かもしれないことを、大切なことだと肝に銘じ、毎日毎日探究し誠実に続けることは、誰にでもできることではない。その大変なことを、気負うことなくゆったりと構え続ける人達が作る空気に、そしてDNAに刷り込まれているような接客の姿勢に、お客が“老舗”を感じるのではないだろうか。
これを見ると、やぱり!「一茶庵」で修行なさったという気がします。
■製粉福島県会津産で、しかも標高の高い山岳物のソバを自家製粉している。このような希少なソバを100%使う為には、自家製粉するしかないと、大きな大きな石臼5台を、風味を損なわないようゆっくりと稼働させ、粘りのある粉に仕上げているという。
■蕎麦この日は、せいろ(一般の並そば二八)¥1000.-と三色そば(好きな蕎麦を3種を選ぶ)¥1400.-。そして、品書きにはない特別メニューの“田舎の蒸し物” を頂いた。全体の印象として、一言でいえばやはり「一茶庵系」。せいろは、喉ごしのよい細切り。三色で選んだ変わり蕎麦は、桜切り、けし切り、柚子切りを頂いたが、どれも美しい色合いが更科粉と相まって、それはそれはあでやかで香り高い。「田舎の蒸し物」は、柚子のアクセントを効かせた本枯れの鰹節とシイタケの御出汁がしっかりとしていて、太めの田舎蕎麦と相性が抜群。熱々のお汁に半熟になりそうな玉子と三つ葉がトッピングされ、あれもこれもと、たくさん食べているのに、思わず「おかわりっ!」したくなる一品。
せいろ 三色(柚子・芥子・桜) 田舎の蒸し物
麺の太さを店主平沼さんに伺ったところ、「蕎上人」では、太めを2mmに、並は1.9mmに、細めは1.8mmに、変わり蕎麦は1.5mmに、打っているそうだ。400人の蕎麦職人を育ててきた平沼さんが、麺に仕立てる作業説明を、手振り身振りを加えて、慈しむようにお話なさる姿が印象的だった。蕎麦道具についてもいろいろと伺ったので、次の機会に是非書きたい。
■薬味と蕎麦湯美しく仕事のしてある薬味は、定番のねぎ、大根おろし、山葵。気さくな花番さんが、タイミングよく運んでくださる自然な蕎麦湯に、ホッ〜〜っとため息がでる。 お腹も気持ちも大満足。もっと近ければ、通ってしまいそうだなぁ〜と思いつつ家路についた。ごちそうさまでした。
■品書きせいろ\1000.-、田舎そば¥1000.-、けし切り¥1300.-、ゆず切り¥1300.-、茶切り¥1300.-、すずしろ¥1300.-、そばとろ¥1500.-、鴨せいろ¥1900.-、冷やし鴨南そば¥1900.-、五色そば¥1800.-、冬の鍋\3800.-、甘味(そばがき、しる粉、甘味そば、ぜんざい)各\900.-
■住所台東区駒形2-7-3■電話03-3841-7856■営業時間11:30〜14:00 17:00〜20:30(売り切れ次第閉店)■定休日月・第2・第4日■アクセス都営浅草線浅草駅A2出口より徒歩5分
駒形「蕎上人」2008年5月23日の記事を読む
2008年03月15日
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