
店構え同様、一見そっけなくクールな職人風貌の店主だが、その実人懐っこく笑顔がチャーミングなので、私は密かに「はにかみ店主」と名付けようかと・・・失礼なことを。ともあれ確かな腕前は、さすがに飯チャンの会。おおもとの大井「布恒更科」を筆頭に、このグループの蕎麦は時折どうしても食べたくなる。


■蕎麦伺ったのは金曜日のお昼2時をまわった頃、食べようと思っていた季節の変わりそば(伊予柑切りそば\1000.-)が既に売り切れとなっていた。こちらの変わり蕎麦は、透明感のある更科粉と香り高い混ぜものが素晴らしいので、「終わり」と聞いてがっくり。

厚い鴨のスライス4〜5枚とやはり厚めの小口切りで味のしみたねぎが、ほんのり柚子の香る温かいお汁に入っている。しっかりと濃厚な辛汁と鴨の油が一体となって、ごちそう感で思わずにんまり。


濃厚な鴨汁 二八そば
修業先である「布恒更科」のつゆは、濃いのに塩辛すぎず角もなくまろやかで、成熟した旨味があり好きだ。「権正」のお汁もよく似ているので、基本製法は同じかと店主に伺ってみたら、やはり飯チャンの会の各店舗のお汁は、基本的に同じようなところから出発していると教えてくれた。「でもうちは、土間がなく下がコンクリートですからねぇ」と言う。
「布恒」の土中に埋め込まれたあの甕に秘密があるのだろうことは、皆よく知っているのだが、実際あの味はなかなか作れない。たぶん由緒ある酒蔵のように、あの土中の甕に、家酵母かなにかが作用しているのだろう。言ってみれば天使の仕業だ。だから、同じ信州須坂 塩屋醸造の醤油をつかって同じように甕に寝かせても、「権正」と「布恒」の汁は同じにならないと言いたいのだろう。しかしそれぞれの環境や製法で、満足のいく独自の汁を工夫し作っていくとのこと。その辺りにも熱意を感じた。
普段の私であれば、この鴨で・・・まず熱燗をいただきたいところではあったが、午後の用事が控えいたので涙をのんで我慢。運ばれた二八に手をつける。姿も美しく、水切れの具合もいい、量もまずまず、安定した職人の仕事のしてある二八だ。きっちりと修業したプロの技が、実にさり気無くあたりまえに詰まっている。薬味には、山葵とねぎ。
■蕎麦湯きっと釜の湯を変えたばかりであったのだろう。別につくることもしない蕎麦湯は、サラサラであった。実は、鴨汁を頼んだ時、“もぅ一つ蕎麦猪口をくれないかなぁ〜、くださいと言おうかなぁ〜”と思っていながら・・・。最初の一杯の蕎麦湯は、こちらの蕎麦猪口に残ったお汁を薄めても、飲み干すには濃い。だから、取り分けて蕎麦湯のおかわりの度に、汁を足していければ尚美味しく飲めて嬉しいのだ。二杯目は、柚子の香りが嬉しい七色を少し入れて。そう思いつつ、今回も言い出せなかったなぁ。でも、当たり前に蕎麦の香りのする蕎麦屋の蕎麦湯。はぁ〜っ

■住所品川区大井1−1−6■電話03-3776-8580■営業時間11:30〜15:00、17:00〜20:00■定休日日・祝■アクセスJR京浜東北線・東急電鉄大井町線・臨海高速鉄道、大井町駅徒歩30秒
