
ずずっと入った路地の奥。生成りの暖簾が掛かっていなければ、蕎麦屋とわからず通り過ぎるにちがいない。「あっ。蕎麦でも食べよう」と、通りがかりに思い立っての客は、まずいない。いや、絶対にない。客全員が全員、「野島」をめざしてわざわざ商店街を抜け、住宅ひしめく路地に分け入った物好きである。何が嬉しくってこんなのころまで・・・と、自分の性質をぼやきつつ暖簾をめざす。それでもまだ桜の季節には楽しみがある。「野島」の先には、たったの200m程だが、太く立派な桜の並木。また近くを曲がりくねって流れる石神井川の両岸は、ちょっとした花見の名所で、川面に映る桜は、なかなかのものだから。
しかし訪れたのは、夏の終わり。蕎麦にとっても厳しい条件の季節で、新蕎麦の頃を指折り数えるときである。 店主は、そのことを十二分に承知していて、はるばる来た客が同好の物好きとみるや、蕎麦への熱い気持ちを惜しげもなくぶつけてくる。昼どきを外して何度か伺ったが、そのたびたびにお声掛けいただき、この日ももり一枚注文の私一人を相手に、昼休憩を潰してたっぷり1時間半の蕎麦談義を展開してくれた。

■製粉全て戸隠産在来種のソバを石臼挽きし、用途や客の要望で60〜20メッシュで篩い、生粉打ちでだす。使っている石臼は、もともと豆腐の豆を挽く為の電動石臼であったが、どうしてもソバ粉の手挽きがやりたいと、見込んだ石臼職人に構造をかえてもらった。毎日の製粉の重労働を想像し思わずため息をつくと、試しに石臼を挽かせてくれた。なんと石臼の上半分だけで45kg。(私の体重とほぼ同じ。うそです。はい?あっ誰も信じていませんか。ああ、そうですね。しょうのない嘘を(~_~)すみません。)廻すことなどとてもできず、満身の力を込めても2cm動かすのがやっとで、あとはビクともしない。
「自分で蕎麦畑もやりたい。その間はお店を開く日数を減らす」と言っていた店主だが、「蕎麦屋は自分の体がもつまで、つまり一代限りでやめる」「毎年だんだん体が厳しくなってきた」「今年の年越し蕎麦は、予約注文数だけしか打たないことにする」と、いままでの訪問では聞いたこともない弱音も吐いた。一軒の自家製粉手打ちの蕎麦屋を、厨房内から花番まで、他の職人どころかアルバイトも雇わず一人きりで営むことは、それはそれは大変なことだと想像する。しかし蕎麦に対して、また食べてくれるお客様に対して、納得のゆく満足な仕事をするには、作業を他任かせにできないそうだ。
■蕎麦と汁さて、この日いただいたのは、十割そば(もり)¥800.-。このメニューだけは、挽きぐるみを朝から打って客の注文に備えているので、オーダーが入るとソバ包丁で麺に仕立て茹でての2工程5分ほどで、客の目前に蕎麦がでてくる。が、他は全て客の注文が入ってから打ち始めるので、「出来上がるまでに20分ほどお待ちいただきます。お時間は大丈夫ですか?」と宣言を聞くことになる。そのお客の顔をみて、その人の為に打っているのだ。そして、全ての蕎麦は、茹で加減の好みを聞いてくれる。

して、そのお味は、独創的。どこの蕎麦屋でも修行したことがない、食べ歩きも殆どしないといういかにも店主らしい、言うなれば“野島光好の蕎麦”だ。色は褐色がかっており、太打ちでややザラザラ感と歯ごたえがある。生粉打ちらしくこの時期でもソバの香りとほんのり渋みも感じる。一人前は生の状態で150gで、量もまずまず。水廻しに使っている富士山の伏流水“VanaH”や“水響”の作用は、私には感じ取れなかった。
もりの蕎麦汁(ご存知だろうか?冷たいお蕎麦の蕎麦汁=辛汁という)には、甘めと辛めの2種類を用意してくださる。醤油・みりん・砂糖の種類がそれぞれ違い、出汁は鯖と宗田鰹だそうで、鰹節を使っていないという。かけの蕎麦汁(温かいお蕎麦の蕎麦汁=甘汁という)には、出汁に利尻昆布も入れている。

■薬味ノーマルに葱と山葵。他に香の物が一品つく。この日は、胡瓜の糠漬けがついた。
■蕎麦湯丸い塗りの湯桶に入った蕎麦湯は、釜の湯とはまったくの別製で、とろみ加減は少ないが、味は濃厚だ。前回は薄い灰色であったが、この日はなんと色がレンガ色がかった乳白色。これもまた独特の蕎麦湯。
■品書き十割そば(もり・かけ)¥800.-/特製十割そば(もり・かけ)¥1100.-/特製十割昔そば(もり・かけ)¥1300.-/特上十割水響そば¥1600.-/特上十割水響二たてそば2500.-/特上十割水響三たてそば 3000円(要予約)/おろしそば・薬味(きざみのり・生卵)各100.-/挽きぐるみそばがき¥700.-/特製そばがき¥900.-/特上そばがき1200.-/挽きぐるみそばすいとん¥1000.-/特製そばすいとん¥1200.-/特上そばすいとん¥1000.-卵焼¥700.-/野菜揚・タコクン・スモークチキン 各¥600.-/身欠にしん・焼き味噌 各¥500.-/きのこおろし¥450.-/こしあぶら漬け物¥400.-/そば味噌・ふき味噌・ふきのとう味噌漬・山菜刻み・山菜おろし・しらすおろし・野菜揚・きゃらぶき佃煮・うどんきんぴら 各¥300.- 他ビール¥600.-/日本酒 朝日山・菊水純米・さるとび¥600.-/初孫¥900.-/韃靼そば茶¥300.-
また、蕎麦打ち体験は、一人5000円。富士山の伏流水“VanaH”500ml¥340.-/2000ml¥570.-の代理店販売をしている。
蕎麦談義にいつも時間をさいてくださることに深く感謝しつつ、独自路線をひた走る店主の“体がもつ”ことを祈るばかりである。

また,行ってみたい蕎麦屋です。店主のご健康を祈念いたします。
こういうのを灯台もとぐらし、というのでしょうか?
ほしさんの江戸東京「蕎麦探訪」のなかの板橋界隈編です。
「野島」さんの蕎麦打ちから茹で上げの動画が見られます。
そして、ほしさんの召し上がる姿も。
お宝映像です。↓ビックリしました。
http://www.gtf.tv/blog/users/gtf-staff5/?itemid=4674&blogid=113&catid=1108
我が優秀なる「石臼の会」のメンバーを唸らた、
と聞いたら、もう行きたくてたまらない気持ちです。
入口の構え、暖簾の掛け方からして、店主の拘りが伝わって来る様な雰囲気がします。
お店の中は? おそばは? 汁は? 薬味は?
器は? 酒、肴は? 等等、空想が脳裏を駆け巡っています。
機会をつくって訪れて見ます。
メンバーが唸りの声を挙げた蕎麦とはどんなおそばか
興味津々さま
龍成さま
「野島」の蕎麦は、江戸蕎麦とは別物。
でも、一度は行っておきたいお店の一つだと思います。
いろいろな意味で、「えっ〜〜ぇっ!?」と驚かれることと思います。
ご訪問の機会に恵まれますように。
たけじんさんの企画のお陰で、「石臼の会」食べる会史上、記録に残したいような楽しく有意義な会でした。「野島」のご主人にも、すっかりお世話になってしまいました。ひたすら感謝感謝です。