2004年12月24日開店の「眠庵」は、カウンター4席、4人がけのテーブル×2、2人がけのテーブル×1つの小さなお店である。訪問するにあたり1つ目の難題は、お店の場所が分かりにくいこと。2つ目は、極少スペースにもかかわらず、長っちりのお客が多い故、ふらりと訪れても席が空いていることが少ないことだ。この日は、1週間前から予約をして、酷暑の夕暮れに伺った。
失礼ながらお店を一言で表現すると、「悠々蕎麦オタクの店」。化粧品のファンデーション等パウダーの“粒子”を顕微鏡で覗く研究員だったという店主の経歴を知って合点がいった。好奇心旺盛な理系の若い店主は、蕎麦粉の粒子まで嬉々として研究しているに違いない。蕎麦職人というよりは、まったり系悠々蕎麦研究員といった方がピッタリとくる。
想像するに店名の由来は、頻出する雑誌などの紹介記事とは相反するように、実は来客数0人を目指している風も感じられる店主が、店でボーっと白昼夢よろしく蕎麦の夢に浸れる時間を楽しむ店・・・眠るように暇な店「眠庵」ということではないかと思ってしまう。いつか真相を聞いてみよう。この店主の構えと、自ら半年間改装工事にかけた大正築・再建築不可という66uの古民家が、客人をも時の谷間にすっぽりと落とし込んだようにゆったりとさせる。暖簾をくぐった蕎麦前好きの客は、自ずと心が和んでゆるゆると席を暖めることになる。須田町というよりも連雀町の蕎麦屋と言いたい風情だ。
■蕎麦前嬉しいではないか。品書きには、きっちりと「蕎麦前」とあるのだ。日本酒の、しかも、無濾過の生原酒狂の私には、猫にマタタビ状態のラインナップ。日本酒を愛する店主の店は、無条件に大好きだ。アルコール度数16度〜18度の体力勝負の酒が並ぶ。その中から、この日お薦めの酒をお願いした。供されたのは、開運あさば一万石 純米吟醸生¥680.-、 杉錦生もと純米中取り原酒¥680.-、 白隠正宗 山廃純米生原酒¥740.-、 高砂 山廃仕込み純米生原酒無濾過あらばしり¥740.- 少しずつ重くなっていく順番にも配慮を感じる。4種類とも静岡県の蔵が軟水でゆっくりと醸した酒で、味に深みがあるのに、さらりとして飲み飽きしない素直な後味は、温厚でいてマニアックな店主のイメージにピッタリ。



突き出しには、おからの小鉢。美味しいお酒ににんまりしつつ、肴に蛍烏賊の沖漬け¥320.-、うるか¥320.-、蟹漬け¥260.-、さより干し¥320.-、蕎麦掻き¥840.-、牛肉と大根のバーボン煮¥580.-、豆腐(自家製)¥320.-、煮豆腐¥420.-、などをいただいた。どれも少量ながら良心的な価格設定で、強い生原酒にも良く合い、またまたいつものことながら盃がすすむ。


左:豆腐(自家製) 右上:おから 左:うるか 右:蟹漬け
■蕎麦二種もり(産地の違うもり二種)¥1160.-をお願いした。



茨城産常陸秋ソバ 富山産在来種
帰り際にちらりと聞けば、自分で目立てもするという電動石臼で丸抜きから自家製粉、12メッシュ(12?!えっ、ほんと?酔って聞き間違ったかもしれない)で篩うという。「ソバの生産者のところへは必ず行っていて、2枚目の蕎麦粉である富山へは、これから行くのですが、在来種ですよ。」と快く説明してくださった。汁については、今も鮮明に覚えてはいるのだが、私の中で、感じたことの考えがまとまらない。後日再訪してから機会があれば触れたい。
■薬味小皿に小さく丸まった本山葵・辛み大根がちょこんと乗っている。雑誌を見た若者のお洒落心を充分に刺激する景色。そして、この店の薬味にねぎはない。店主は、故杉浦日向子さんの講演で、蕎麦の風味に葱の香りは強すぎると聞き、以前から同じことを感じていたので心強く思い、薬味に葱を出していないそうだ。この度、私もなんだか納得したことでもある。ここのお蕎麦に、ねぎはいらない。
■蕎麦湯基本的に釜の湯ということだが、釜の湯を換えたときなどは、別製で濃度をつけているようだ。この日は、別製でトロリと滋味豊かな仕上がり。湯桶は、ぽってりと白い釉薬のついた気取りのない陶製のもの。
さて、次にこの店のお蕎麦にありつくのは、いつになるのか・・・・・・。なんといっても、いつ行っても混んでるんですよね。
いかの丸干し焼き、これもいいですよ。
まさか1人で飲んでたんじゃないですよね?
まさか・・・一人で原酒4合は・・・。
実は、この日は私の誕生祝ということで、
息子達がご馳走してくれました。
家族揃って、食いしん坊&呑兵衛で・・・
エンゲル係数高いです。
次回は、是非いかの丸干し焼きを頼んでみます。
興味津々さま
生粉打ちで鳴らした興味津々さまに、
「美味しくてまいった」と言わせるのだから、「眠庵」はたいしたものですね。
もっと空いていると、気軽に行けるのですが・・・。
私の場合は放っておいてもらう、ありがたいことです。
ブログを拝見し、詳細なコメントや精緻な分析に感服いたしました。蕎麦を愛する心が伝わってまいります。
今後益々のご活躍を祈念申し上げます。
また、参考にTBを打たせていただきました。
稚拙な記事への過分なコメント&TBを有難うございます。
千代田グルメ遺産さまの美しい写真や、土地を熟知していないと、なかなか知りえない貴重なお店の記事をいつも楽しみにしております。
江戸ソバリエは、千代田区とは少なからぬ縁を持っておりますし、今後ともどうぞお付き合いの程をお願いいたします。
拙ブログへのトラックバック、
コメントを頂き、ありがとうございました。
眠庵にも最近また行ったのですが、
こちらの記事を拝見させて頂くと、
やはり観察眼のレベルの高さに
敬服させられます。
昼だったので、
今回はあまりお酒は飲めなかったのですが、
岩手の地ビール「ベアレンビール」は
重厚でコクがあって印象に残ったので、
そちらをブログのネタにしました。
最近は、酒の記事ばかりで、
蕎麦屋のネタはあんまり書いていないのですが、
気が向いたらまた覗いて見て下さい。
よろしくお願いします。
コメント有難うございます。
酒蕎麦Bさまの幅広い記事はとても勉強になり、また楽しみでもあります。
きっと、いつでも全方位にアンテナを張り巡らせていらっしゃるのだと思います。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
眠庵に行って来ました。店主は、自転車事故で休養中。お弟子さんの日比谷さんがとても素晴らしい蕎麦を打ってくださいました。
笑門来福さまの素敵な文章を勝手に紹介させていただきました。
いつもコメント有難うございます。
稚拙な私の記事もご紹介いただき、恐縮です。
重ねて御礼申し上げます。
華麗麺麭(カレーパン) さまのブログ記事で
吟八亭やざ和風と眠庵風の差のところが
とても面白く、興味深く読ませていただきました。
柳沢さんも早く完治されて、また以前のように
或いはそれよりも、もっと美味しい蕎麦が打てるようになるといいですね。