出雲へ行きたいっ!という、キッカケになったお店。羽田から朝一番の飛行機に乗ったが、台風の影響で遅れに遅れてやっと出雲入り。荷物も下さずお店に直行した。店の前には、噂に聞いていた行列はなく、強烈な悪天候が功を奏した格好か?
■■天明年間創業の荒木屋で
■■出雲蕎麦の歴史を想う
石臼の会シリウスさまのご家族が撮った 江戸時代「荒木屋」さんが使っていた屋台の写真を、2011年秋に見せて貰って以来、実際この目で見てみたいと思っていた。
さて綺麗に保存されている実物は、なかなかガッチリと作られており、かなりの重量がありそう。
これに容器やら麺やら汁を入れて担いで移動するとすれば…昔の人も大変だったなぁ…担いだ人の体格はどんなだったのだろう?と、8代目当主 浜村裕昭さんのほっそりとした体形を思い浮かべながら、つい考えてしまう。
屋台は2つがセットの構造で、真ん中のところに棒を通して一体化させる。
天保末期に歌川広重が描いた東都名所 高輪二十六夜待遊興之図に、お月見どき、品川に賑やかに集まる人々と、この屋台そっくりな蕎麦屋台が描かれている。
屋根が「市松模様になっている屋台は食べ物を扱う」と決めごとがあったと何かで読んだ。ちょうど画中蕎麦屋台の前に屋根部分だけを、運ぶ人も見える。だから、2つセットの屋根を覆う別のパーツの屋根部分が荒木屋さんにもあったのか?それとも市松模様は出雲では決めごとではないのか?別パーツは無かったのか?とも想像が膨らんだ。
訪問の次の目当てが、今で言うところのソバクーポンのようなもの「蕎麦預」の実物を見ること。創業天明年間 220年強続くこのお店の屋根裏から出雲大社の御師(=神職・荒木屋初代も御師)が布教活動に使ったソバクーポン「蕎麦預」の版木が出てきた事を、NHK「ブラタモリ」出雲編で知った。
初代が「蕎麦預」を刷っては各地に配り、参拝者が蕎麦を食べる風習が広まった、と店で伝えられているそうだ。
御師(=神職・荒木屋初代も御師)は、縁結びという嬉しいご利益に結びつきそうな信仰と美食をセットにして、参拝客に魅力的な旅を提案し、結果広く広く布教活動をする。つまりは出雲大社がいろいろな神事(イベント)開催を工夫すれば、大社を守る藩や街も観光客限定富くじを仕立てたり、蕎麦やらスイーツやら美味しい目玉を取り揃えて、訪れる人がついつい滞在日数を増やさずにはいられないような、街にもお金を落とす(今の金額にして約20億円/回のお金が落ちたという)一大産業を構築した。正に地域おこし、凄いっ!!
地域産業「出雲蕎麦」の年月をサラッと
振り返って見るならば、
1638年:
国替えで松江藩主松平直政(1601年〜1666年)が信州松本から移封した折に、「そば切り」の技術も伝わったという説があり。
1666年3月27日:
「今日ハ、御柱立談合ニて日暮、蕎麦切振舞」と、松江において松江藩寺社奉行・岡田半右衛門の役宅で蕎麦を振る舞われた事を示す「江戸参府之節日記」があり、出雲蕎麦と括られる地方においての、「ソバキリ」文字の初見。
※県立古代出雲歴史博物館が、寄託された出雲大社上級神職・佐草自清の日記を調査し2015年10月発見発表。
1781年〜1789年(天明年間):
荒木屋が創業したと伝わっている。
1849年:
阿波国・酒井弥蔵が出雲大社参拝を綴った道中日記「出向ふ雲の花の旅」の中に「五拾弐文 支度、蕎麦代」、とある。
※今月(2015年10月)、「江戸参府之節日記」が見つかるまで、出雲蕎麦と括られる地方の事で最も古い「蕎麦」の文字がコレだと思われていたので、荒木屋さんとしては控え目に「天明年間創業と、先祖から伝えられてます」と表現していた。荒木屋さんの屋根裏から発見された「蕎麦預」版木の年代測定はしたんだろうか??この際だから、県立古代出雲歴史博物館にして欲しいなぁ。
参考:ソバの文字の見られる古文書
1574年:
木曽大桑村須原宿「定勝寺」の「番匠作事日記」。
現在のところ「ソバキリ」文字の初見。
1608年6月21日:
尾張一宮「妙興禅林沙門恵順 寺方蕎麦覚書」
※非公開なので…。
1614年2月3日:
江戸での初見「慈性日記」
1622年12月4日:
奈良の茶会記である「松屋会記」に
1624年2月14日:
京都での初見「資勝卿記」
さて、やっと実食っ!
■■ほんのちょっと蕎麦前
■■初 割子蕎麦+釜揚げ蕎麦
息を切らしてお店へ。2階の広びろとした座敷に通してもらう。何故かお客の8割以上は女性。だからという訳でもないだろうけれども、お酒を飲んでいる人が居ない…。食べ終わった人も皆、おしゃべりしながらのんびり寛いでいる。そんな中…午前中からお酒を注文するのも、ナニかと思った…けれども…やっぱり…ねぇ。蕎麦前がないと寂しいものぉ。
まず、恵比寿ビール¥670.-。直ぐに、日本酒の燗¥?.-×2
左手前が、大社名物「のやきかまぼこ」 6切¥660.- 3切¥330.-「トビウオで作ったかまぼこです」
左奥が、大社名物「いかの麹漬」¥410.- 「山陰沖のするめいかを使用。無添加。麹菌が生きています。発酵のおかげで柔らかく、アミノ酸の影響で美味しい」と壁にとってもキャッチ―なコピーが。
こりゃぁお願いしないわけにはいかない。一口食べてみれば…そうそう、本当にいかの麹漬は、とても美味しく日本酒のあてにモッテコイ。
さぁ〜いよいよ初出雲蕎麦っ。
割子蕎麦¥810.-
割子三代蕎麦¥1090.-
釜揚げ蕎麦¥640.-
外皮を挽きこんでいるので麺の色が黒い、けれどザラザラ食感と言うほどでもない。想像していた硬い太目の平打ち麺ではなく、江戸蕎麦よりもほんの少し太く、意外に喉越しの良い麺。ウルメイワシが出汁のベースになっているというお汁は甘口で、流石老舗の貫録を感じるバランス良く癖のないもので、創業以来枯れることなく滾々と湧き出しているという井戸水のせいか?上品で柔らかな優しいお汁だ。とっても魅力的なお汁なので、お土産にできたらいいなぁ〜と思ったくらい。
※会計レジのところで、お土産(乾麺蕎麦 や 蕎麦汁)を販売しているけれども、お店で出している蕎麦や汁とは別物だそう。
そして何と言っても素晴らしかったのが、どの花番さんも どの花番さんも、老舗らしく皆ゆとりを持った大らかで心地よい接客をしてくれて(東京でいうなら、神田藪や神田まつやの感じ)、こちらの気持ちまで和らいで来るのを感じた事。私はこういう蕎麦屋さんが大好き。
■住所島根県出雲市大社町杵築東409-2■電話0853-53-2352■営業時間11:00〜17:00(売り切れ御免)■定休日水 ■予約不可(=予約は必要ありません。誰でもいらした順番にご案内します。との事。)
出雲は大社も蕎麦もいまだ経験していません。私の初体験はいつになることやら。
次の記事を大いに楽しみにしています。
いつもコメントを有難うございます。
はい、お陰様でとても良い旅をさせて貰いました。
取り分け荒木屋さんは、お店の存在そのものが「出雲蕎麦」の歴史なんだと、心して伺いました。
それでも、圧倒されるような重々しい感じは皆無で、
実にアッサリというか自然体で、お店の方々もお客も大らかでのんびりした風情があり、すっかり魅了されることに。
もしまた伺う機会があれば、「ただいまぁ〜」と言ってしまうのではないかと思うくらい親しみを感じる素敵なお店です。
宵待庵さまが、出雲へ旅をなさることがあれば
きっと、「蕎麦預」ばかりでなく他の沢山の版木にも興味をもたれると思います。
蕎麦の話題からドンドン外れるので、ここではご紹介しませんでしたが
私のような素養のない現代人でも、まるで謎解きのようにも感じられ、興味をそそられましたから
詳しい方が見れば、きっとその意味が分かり楽しめるものと確信します。
それらの背景や意味を、私に解説してくだされば…なんて勝手な事を願ったりも。
これに限らず、今後ともどうぞよろしくご指導をお願いします。