2014年12月12日

木曽町新開芝原「時香忘」

 

宵 待 庵 閑 日 記

2014.12.10




  今年の白眉は『時香忘』である。「ジコウボウ」?

蕎麦店である。この店の蕎麦を一言で表せば「寒ざらし熟成蕎麦」これまでの蕎麦行脚でこれほどの蕎麦切りに出会ったであろうか。蕎麦の常識を打ち破り、打ちのめされた。ショックで蕎麦を打つどころか蕎麦を語る気も失せた。あの日から四か月、漸く気持ちを取り直し、記録を残すことにした。





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  広い駐車場から目に留まるサイン『ZCOBO』に驚く。意味不明のロゴ。駐車場からの導入口に『時香忘』のサイン。





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  その下に、

  本日の蕎麦の熟成は

  三日とある。


  また意味不明。





 









そこから板橋の長い渡がせせらぎの聞こえる森の中へ客を誘う。




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  木立から玄関に入り目に映るものはア―ト。ミニギャラリ―である。??オ―ナ―が商社マンであった頃の作品で、現在は制作していないとのこと。人の優しさが伝わってくる。ほのぼの!オ―ナ―であり作者は高田典和氏。48歳で転職し、独学で蕎麦打ちを習得。






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  店内は、森の緑と渓流を満喫できるレイアウト。

都会人ならずとも癒される。洗練された美の構成に心洗われる。テーブル席に案内され、待つことしばし。

蕎麦来る。





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極粗挽き寒ざらし熟成 もり蕎麦、同じくおろし蕎麦。

一つまみ口に入れるや、その甘味に極上感あり。二度三度と手繰り、頬張る。少し落ち着き、汁を付けてすする。香り良し、歯切れ良し、姿良し。強い腰と喉ごしが特徴。心ゆくまで蕎麦を味わった。汁は甘からず辛からず、蕎麦を押しのけて邪魔をすることなく、薬味、本わさびと共にピアノ四重奏の響き有り。余韻に浸り蕎麦湯を飲む。




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メニュ―の中から情報集めをした。当日のメニュ―は3点のみ。

極粗挽き寒ざらし熟成 もり蕎麦   1200円+税

極粗挽き寒ざらし熟成 おろし蕎麦  1500円+税

極粗挽き寒ざらし熟成 イカスミ蕎麦 1700円+税


他には、

季節限定の鴨南蛮蕎麦、数量限定の木蕎麦、夜明け蕎麦。

予約制の石割蕎麦、野点蕎麦。などが品書きとしてある。






  メモを取っていると品の良いご婦人が「オ―ナ―がご挨拶を申し上げたいと申しておりますが、よろしいでしょうか?」

その後、一時間を超える話をオ―ナ―から聞くことができた。




要旨

蕎麦は自家栽培、地元栽培、八ヶ岳山麓、奥志賀高原の信濃一号。小さい石臼で二度挽き、三度挽き。極粗挽き全粒粉。殻ごと挽き、殻が混じる。9メッシュと20メッシュのふるいを使用。小麦粉は使用せず、雄山火口(おやまぼくち)を0.15%入れる。


水は木曽の水原水を精製し、分子構造の違う水を使用する。加水率70%。この水は雑菌の増加を抑制する。約一時間捏ねる。


打ち粉はほとんど使わず、粗く挽いた粒々の粉とざらざらに挽いた甘皮をブレンドし、その粉で麺の両面をコ―ティングする。2kgの麺の両側を300gの粉でコ―ティングする。


麺にした蕎麦を真空パックにし、0℃〜−1℃の氷温で三日〜四日熟成。これが、時香忘の極粗挽き寒ざらし熟成蕎麦。

出汁はソ―ダ鰹、ムロ鯵の鰹節と昆布とカヤシメジ。


ことさら驚いたモノは、のし棒である。新潟妙高の小蕎麦を打つ地方で太いのし棒を使用することは知ってはいたが、高田さんののし棒は特製で、100ミリを超える太さ。

のし棒に圧倒され、ただ笑うしかない。




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高田オ―ナ―の話は、畑を耕す鋤のように、時間を耕した。時香忘は時が香り、時を忘れる場であった。「一粒の実、一滴の水、そして一途のこだわり」の蕎麦。

御嶽山の影響がないことを祈る。



■住所長野県木曽郡木曽町新開芝原8990■TEL0264-27-6428■定休日4月〜11月・火曜日/12月〜3月・火、水、木曜日/8月無休(臨時休業有り)■営業時間月〜金1100/土日祝1030〜 ※蕎麦売り切れ仕舞い








posted by 石臼の会会員 at 14:20| 東京 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | ⇒長野・新潟・山梨 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
宵待庵さま

いつもながらの素敵な文章、読ませて頂きました。

加水率70%!!!仰天。
後からコーティングにつかっている蕎麦粉の分量分にも、
時間経過で水が浸透してゆくとしても
もの凄く多いですね。
打つところを見てみたいです。

そして、麺棒すごいですね。
鬼の棍棒みたいで、びっくり。
Posted by 笑門来福 at 2014年12月12日 15:38
笑門来福  様

いつもありがとうございます。

鬼の棍棒?
そうなんですよ。
小庵は弁慶の七つ道具という思い。
どう表現しようと並はずれ。
蕎麦に対する思いにに差があった。
もっと謙虚に、真摯に向かわなければ。
自己否定に陥りました。

今宵はこれにて御免。
Posted by 宵待庵 at 2014年12月14日 22:54
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