そんなところへ好機が巡り、siriusuさまが「奥久慈蕎麦紀行」として、こちらのお店もご案内くださることに。ということで、石臼の会一行10名の団体での訪問である。
■■時が…
■■ここだけゆっくり流れている?
遠路遥々車を駆って泊がけで来たのだから、売り切れ御免で蕎麦を食べ逃すことは、絶対に避けたいと、朝一番のりして軒先で開店時間を待つ。深く色づいた木々を濡らすしっとり細かな雨の所為なのか、人の気配をあまり感じさせないどっしりとした建物の所為なのか、時々通る車の他は音が無く、とても静かで時がゆっくりゆっくりと流れているよう。
やがて定刻になり、入り口が開く。一番奥の席に招き入れられた後、折角だからアレもコレも食べたいと、物凄〜〜く真剣に品書きと睨めっこ。蕎麦仲間と、書いてあることを長く長くかかって想像したり吟味するのも、また楽し。とは言うものの、相当に時間が経った後も一向に注文を取りに来ない。
それもそのはず、こちらのお店は、ご主人一人で厨房の中も外も、どこもかしこも全て一人で運営しているのだ。並んだ順に、客を奥の席へと誘導し、並んでいた順に端から端に席が埋まったところで、今度は順に注文を取りに来る。というか、小さなメモ用紙に食べたい物を各自が書いてご主人に渡し、注文を通す方式だ。広く大きな建物の中を、ご主人が小走りにくるくると動き回る姿に、我々はメモ方式を個人別にせず、siriusuさまが段取り良くまとめて、一括して注文することにした。
そう…我々の居た時間、なんと3時間半以上! 並ぶ列は絶えなかったし、テーブルもずっと塞がっていた。だから、注文までの間、それぞれの料理が運ばれるまでの間。どちらにも、たっぷりと時間がかかるので、気の短い人には向かない店かもしれない。竜宮城にいた浦島太郎さんのように、アッという間に感じた楽しい時間のあと、歳をとってしまうことは無かったけれど、慈久庵で流れていた時間と、他の場所の時間の流れが違ってしまっていたようで、その日の後の予定がドンドン押してしまったのは、本当のこと。
ともあれ
我々はその間それぞれ思い思いに、店を隅々まで堪能しようと、展示?してある雑誌類や、丁度品の数々、茶製造に使う機材類、テラスから眼下に広がる景色までも見て回った。ヨーロッパの田舎家風?建物の外見も素敵だったけれど、建物内部も壁といい柱といい床といい、使われている扉やドアノブに至るまで、どっしりとした本物の質感を持っており、ゆったりと贅沢。この存在感は、実際に見てみないことには、分からなかった。蕎麦や料理を食べる前から、いいなぁ〜♪と感動してしまう。連れて来てもらって、よかったっ!
■■蕎麦前
■■
さて、その順番が回ってきたら、料理もトントンと運ばれて来た。
超珍味・岩魚のうるか¥700.-
もぅ〜〜っ物凄く美味しいっ!濃厚で複雑な発酵食品の旨みと、酒のあてにちょうど良い塩加減。これはで、当然日本酒が飲みたくなってしまぅ…と申し訳ないことに、我々は、日本酒南部美人本醸造¥650.-を。ドライバー三銃士には、ノンアルコールビール¥400.-を。 ごめんなさい。
そば粉とトリュフのポタージュ¥1300.-
トリュフは全部で3片ありましたぁ…ドライバー三銃士に食べて貰うべきだったなぁ…すみません、私1/2片ほど食べちゃいました。まっ当然そこはトリュフの味、なんだかお洒落な品書きでしたぁ。
超珍味・おひしょ岩魚の卵添¥600.-
おひしょとは、大豆と小麦、それに食塩水を混ぜて麹で発酵させたものだ。原料も共通する味噌に風味が似ている…恐らく、「醬(ひしお)」から来ている名前だろうから、“醤油のもろみ”のようなというのが表現として適切か。そこへイクラより2回りほど小粒な岩魚の卵を添えて。ほろほろと崩れる食感が楽しく、プチっと噛めば魚卵の旨みが広がる。我が家で真似るなら、せいぜいイクラの醤油漬けで…誤魔化しておくところでしょう。ともあれ、これも日本酒のあてに素晴らしい。あと2合は欲しくなった…。
自家製刺身こんにゃく¥450.-
仲間内とはいえ隣のテーブルのオーダー品ゆえ、写真だけ撮らせてもらった。プリップリッの食感だったとか。この地域の名産品ゆえ、道の駅などでも、こんにゃく関連のお土産をたくさん見た。ちなみに、凍みこんにゃくは、全国で唯一、常陸太田旧水府の特産品らしい。
岩魚の一夜干し¥800.-
これも隣のテーブルのオーダー品ゆえ、同じく写真だけ撮らせてもらった。美味しそう。日本酒に合いそう〜ぅ。
そばがき¥1500.-
掻きっぱなしのスタイルは、美味しいソバ粉の味が、そのまま味わえる食べ方だ。やや緩めに掻いた粗挽きの粉のざらつき感と香ばしい穀物の味わい。魅力的なソバ粉だと、よく分かった。薬味には、ねぎと味噌。
■■蕎麦
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葱天ぜいろ¥1700.-
長ネギの白いところも緑のところも、5センチほどの長さにザクザクと切り、それを更に薄く切って、サッと揚げてある。甘みの増した葱天に、塩も添えられている。葱だけの天ぷらとは、注文時は少し寂しいのかしらとも思ったけれど、食べてみればいやいや全然!十分に満足できるし、とても美味しい。蕎麦の薬味に、ねぎと山葵。
山芋ぶっかけ¥1500.-
仲間内今回の一番人気。おろした粘りの強い自然薯に、葱、鰹節、海苔、生玉子の黄身が入って、ぶっかけ風に冷たい蕎麦汁をかけて頂く。とてもとても美味しい。今回の旅の「常陸秋そば蕎麦祭り」で自然薯をゲットした私は、家に帰ってからもこの組み合わせを真似ようと、ニンマリ。
鴨せいろ(温かい鴨汁のせいろ)¥1800.-
鴨と葱は、言わずと知れたベストコンビだ。熱々の鴨の油が蕎麦汁に溶け込んで、奥行のあるしっかりとした旨みが味わえる。あぁ〜美味しい。
せいろそば¥1100.-
手繰った全ての蕎麦に共通しているのは、粗挽きに製粉してあるスペシャル特級ランク常陸秋ソバのソバ粉の力強さ。味わい深く、穀物の香りが濃い。そして透明感のある細打ちに仕立ててあるので、のど越しも申し分ない。バランスの良い汁との相性も良く、一つの完成形。
「慈久庵」店主小川宣夫さんは、石臼の会にも縁のある荻窪「本むら庵」で8年間修行した後、90年から南阿佐ヶ谷で「慈久庵」を営んでいた。「本むら庵」譲りの石臼挽き自家製粉・粗挽きの粉でみごとに透明感のある細打ちの蕎麦を打つ。その後02年になって生まれ育った常陸太田市・旧水府地域に戻る。荒れてゆく故郷の里山を再生したいという思いから、ソバで繋がる仲間たちと旧水府地域の農家が皆で協力しあって、焼畑でソバを育てる。1年目20アール、2年目40アール、3年目は60アールという具合に、毎年耕地を広げてきたらしい。だから「慈久庵」が東京阿佐ヶ谷に居たときは、水府在来というかぁ、常陸秋ソバの特級品とも言うべきこの特別な在来農法の焼畑で作った玄ソバは、使っていなかったことになる。
東京に居た時の蕎麦と、両方を食べてみたかったなぁ。(実際、今回「奥久慈蕎麦紀行」同行の諸先輩の中には、めでたく両方を食べ比べた方々が何人もおり「当時も蕎麦は旨かった」と、感想を漏らしていらした。)何故私は、「慈久庵」が阿佐ヶ谷にある時に行かなかったのだろう。残念。
今は、石臼の会ともご縁のある荻窪「本むら庵」や、日頃私たちも時々お邪魔する都内のいくつかのお店でも、この焼畑で作った旧水府地域の常陸秋ソバを手繰ることができる。だからそんな事も楽しみに今後もまた、蕎麦屋を回ることになるだろう。
■■蕎麦後
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本日のデザート「柿のうんてろ」¥550.-
皿が運ばれてくるまで、「柿」の何なのか???さっぱり分からなかった。一口食べてみたら、シャーベット状に半分凍ったように、よぉ〜〜く冷えた柿であった。うぅ〜〜ん…「うんてろ」って何だろう?凍みこんにゃくを作る地域であるし…「凍み」凍らせるということか?
帰り際、ご主人に伺ってみると、とても親切に「この地方では、よく熟れて、てろてろにトロケルようになったものの事を、う・ん・て・ろ、と言います」と教えてくれた。なるほど。柿に限らず、熟れて柔らかくなったものに使う言葉なんだ。へぇ〜。へぇ〜。へぇ〜。の3へぇ〜。
品書きに使う言葉にも、ご主人の郷土愛を感じる。どうして、この力強い旨みのあるソバができあがるのか。焼畑の灰がもたらす栄養分(窒素など含有量が増えるらしい。それに、殺菌効果も)が最大の理由なのか。宮崎椎葉村(やっぱり焼畑でソバを育てている)や、他の地域のそれとは、どんな違いがあるのか。水はけの良い小石交じりの赤い土に、昼夜の気温の差に、或いは、過去は続けていたタバコの後作に…秘密があるという人もあるけれど…どうなんだろう…。ご主人が、店の前に並び続ける多くの客に一人で対応し続ける限り、蕎麦談義に時間を割いてくださるような機会は、巡ってこないだろう。漏れ聞こえていた寡黙で…とうい評判よりも、ずっと優しげなご主人と、お話できる日はあるか。いくつもの謎は解けず仕舞いだけれど、袋田の滝の訪問とともに、また次に訪れる為の口実に残しておこう。
ご案内くださったsiriusuさま、長時間の運転をご快諾くださったドライバー三銃士の 興味津々さま Kさま Micさま、会計を取り仕切ってくださったhighlandさま ご参加の皆さま 有難うございました。
慈久庵:
■住所茨城県常陸太田市天下野町2162 ■電話0294-70-6290 ■FAX0294-70-6291■定休日水・木曜日(祝日の場合営業・翌日休み)■営業時間11:30〜14:30■アクセス車・常磐自動車道日立南太田I.Cより30分竜神大吊橋を目指し、その1Km手前/電車・JR水郡線 常陸太田駅より バス40分 もしくはタクシー20分お店のHP
慈久庵の雰囲気がよく判るように書いていただきました。sirius
いつもコメントを有難うございます。
「慈久庵」の作るソバ。美味しかったです。
焼畑万歳!
一人奮闘する小川店主さまのご苦労にも敬服しました。
ご案内頂いて、本当に良かったです。有難うございました。
それにしても、
「本むら庵」の今は亡き大旦那さまの蒔いた種が
あちこちで素晴らしい実となって、私達を楽しませてくれているんですね。
ご縁のあったM先生や、siriusさまなどは、感慨深いのではないでしょうか。
そう思うと、なんだか私までジィ〜〜〜ンとします。
適切な言葉のメニュ−紹介は脳みそを通して、口中まで
影響を与え、喉をゴックン。あの蕎麦の愛を思い出し、
いや、味を思い出し、もうたまらず立ち上がった。
ところで、TV奇跡の地球物語で放映された、
時香忘の高田典和さん一粒の実 一滴の水は驚愕でした。打ちのめされました。残念ながら食したことは無い。
私も蕎麦粉に殻を少し混ぜる挽き方を真似るのですが
・・・
一粒一滴の足元にも及ばず。反省しきり。
一粒一滴が精進せよと言う。
情報を有難うございます。来年もよろしく。
今宵はこれにて御免 宵待ち庵
過日は、嵐のように団体でお邪魔したのにもかかわらず、
素晴らしい歓待を頂きまして、有難うございました。
久しぶりにお会いできた宵待庵さまと、美しい奥さま
お二人の温かなお人柄が作り出した”桃源郷!”、本当に素敵でした。
もぅ〜うっとりしてしまいましたよ、羨ましい限りです。
そしてまた、この度はコメントを頂きまして、有難うございます。
間の抜けた下手糞な訪問記ですが、
宵待庵さまが、あの蕎麦を既に召し上がっていらっしゃるので、
なんとか美味しかったということが、伝わったか…と、嬉しく思います。
有難うございます。
>時香忘の高田典和さん一粒の実 一滴の水は驚愕でした。
確かに、凄かったですね。
他にあのような打ち方をする人を知らないので
私も、是非どうしても手繰りに行きたいと思いました。
ですので、その内に石臼の会蕎麦紀行の候補として、リクエストしようかなぁ〜とも。
いつか訪問できる日に恵まれますように。
有難うございました。
どうか奥さまにも、失礼の段お許しくださいますよう
よろしくお伝えくださいませ。