2012年11月22日

高田馬場「傘亭」

ソバスキーさまから、「この前、傘亭に行ったら、店を閉めるというような事が書いてあった。」と伺った。「えぇ〜っ、本当ですかっ?」また伺おうと思いつつ、ずぅ〜〜っと間があいてしまったし、これはぁ〜今一度伺わなくては、後悔する。

お店に入ると、日本酒の品書きの直ぐ下に、「そば店の経営を希望する方 安価にて当店を譲渡いたします。希望する方は1700以後電話連絡のうえ来店にて詳細をお話しします。」(=訪問した10月中旬の状況です。)とあった。ご主人と、あれやこれや話していると、「辞める日は、もぅ決めているんですよ。12月●●日くらいには……、……、……。」と。そうなんだぁ…。ご主人は、既に決まっている事として、きっぱりと話された。なんと寂しい。

そうであるなら尚更の事、傘亭さんをしっかりと楽しませて頂かなくては。つまり昼酒っ!なのだ。前回伺った時も、確か筆頭呑兵衛組頭と一緒だったものだから、美味しい肴と日本酒をゆっくりたっぷり飲んだ。今回もやっぱり筆頭呑兵衛組頭と一緒ということは…だ。これら全てを必ず覚えていなくては。




蕎麦前



まず、カウンター席を横に詰めてくださったご常連らしき方の料理の進み具合を鑑みて、注文の間合いを計らねばならない。本当は“ねばならない”ってことも無いのだけれど――この店では何故かそういう空気になり、ご主人の所作の“間合い”を楽しむことになる。その間、店内に張り巡らされている説明書き、品書きを読み返し、「何にしようかなぁ〜」と今日の展開を組み立ててみるのだ。

まず、品書きの「神亀」の文字が目に入った。以前、行田の神亀酒造にお邪魔した折、蔵元が「重い酒から、軽い酒に向かって飲んでいく」と、仰っていたことを急に思い出した。そうだ今日は、最初っから日本酒は、埼玉「神亀-純米」¥800.-を燗にしてもらおう。それに、合わせるのは、大好きな一品「もろみ豆腐」。この組み合わせは、軽いウォーミングアップなしに、ズンといきなり重たいところから、始める感じではないだろうかぁ。今日の前のめりな気持ちが表れている?ような気になり、大いに満足す。



傘亭もろみ豆腐.jpg

もろみ豆腐¥600.-
品書きには、「九州 珍味 美味です。熟成されています。」とあった。原発事故以来、品書きに全ての産地を事細かに書くことにしたとか。


しっかり熟成がすすんでおり、ねっとりとした食感に深い旨み。あぁ〜やっぱり、美味しい!これで、3合くらい飲めちゃいそう。つい先日、あの発酵学の小泉武夫さんは講演会で、平家の落人伝説とともに、九州は熊本の五木村あたりに伝わるこの発酵保存食のことを、熱く語っていた。そんなタイミングでもあるし、元々日本酒を筆頭に発酵物が大の好物だから、「熟成」の文字に激しく反応し、どうしても抗えないし。

神亀一口グビッ。やはり!ほらぁ。熟成した重みのある神亀とは、もぅ〜〜ぴったり。思わず舌鼓。頬っぺた落ちるぅ。



次の酒は、和歌山 黒牛-純米¥700.-
ここ十数年すっかり名前の大きくなった「黒牛」は勿論、私は同じ名手酒蔵「野路の菊」のどっしり感が大好き。「黒牛」を選んだのは、目の前に飾られた一輪挿しの菊からのこんな連想でもある。



どんどん酒器が変わって…って、酒がかわるからだけれど…次は、藤岡酒造「蒼空-純米¥800.-。こっくりと米の旨みを感じるけれど、酒名の蒼い空の通りに、後口はすっきり。伏見の酒と言えば、女酒の代名詞だけれど、このすぅ〜っとひいていく爽やかさは、まさしく優しく素敵な女性をイメージさせる。(まるで私のよう…、あれ?違う?、失礼まだ酔ってる。)


傘亭卵焼.jpg

卵焼¥800.-(混雑時は、頼めない)
このジューシーで、柔らかくって軽やかな卵焼に、たっぷりの大根おろし。出汁の染みたアスパラガス。あぁ〜ホッとする。


ふわっと軽いこの卵で、穏やかでふんわり優しい丸みのある宮城「綿屋-純米」¥800.-を、キュッと。合うぅ〜。お互いが優しく寄り添って、美味しさを増す。


 

鳥取「鷹勇-純米」¥700.-

調子の出てきた私は、この大谷酒造の七割磨きあたりの「強力」をガッツリと燗に…と、心の底から欲っしたけれど、今日のテーマ(?って程の事もないですな)“重い→軽い”の流れを大きく逆行してしまうので、ちょっと抑えて…やや戻り?っていうか…「強力」が品書きになかったし。つまりでも、テーマに沿うなら「神亀」の後に「鷹勇」だったような。うん?



いや。
神亀鷹勇東北泉菊姫黒牛出羽桜綿屋蒼空梅錦吟醸)だったな。いやいや、菊姫と東北泉が逆かぁ。ともあれ、本日はこれら純米酒を梅錦以外は全部、燗にしていただきましたぁ。あれ、何か1種類足りない。あっ、山形は酒田のだ。まぁ〜最初は4合くらいで終わるつもりだったし、途中から、行きつ戻りつしてしまったから…。



たまぁ〜にしか訪れない気まぐれな客を、傘亭ご主人は覚えていないだろうけれど、伺えば何時でも変わらずアレコレをとっぷりとお話くださる。本当に美味しいソバの味わい方。牡丹品種について。日本で一番美味しいカレーの話やら、宿泊した中で一番居心地のよいホテルの話やら、宗教論やら、凄い量の資料やスクラップを基にした原発のあれこれやら、そして今日もやっぱり自然食の深い話を経巡り、古今東西にどんどん移り変わって、間があいてしまった時間を遡り、○昔前の初めて伺った頃と同じ、ホンの少し若々しい気持ちになる。傘亭ご主人の安全で美味しい昼酒蕎麦屋への変わらぬ情熱。けれども、実際には皆がそれぞれに時間を重ね、歳を取った。それにしても、こんな風に蕎麦屋さんを楽しみ始めてから、成長したのだろうか?私は。どんより停滞しているではないか、だめだなぁ。




そ、でも、だから、取りあえず、
食べたものの写真を並べてゆこう。(随分と、撮り忘れがあるやも)



傘亭抜天.jpg

抜天ぷら(海老2、付野菜)¥1300.-

下に見える三角の小皿には、三種類の塩。


こちらの天ぷらの衣は、いわゆる昔からの蕎麦屋の天ぷら衣よりは薄く軽いけれど、天ぷら専門店よりは、ほんの少し厚い。以前ご主人も「ちょうど中間を狙っている。」と言っていた。それには理由があって、昔からの蕎麦屋で「抜き」を頼むということは、ジュワッと衣に蕎麦汁が染みて、天ぷらが美味しく食べられると同時に、蕎麦汁に天ぷらの油が入ってコクのある旨みが生まれるという筋書きがある。天ぷらと汁、両方が両方とも美味しい酒のあてに、と。けれども、こちらでは吟味した天ぷらの素材を、風味の違う塩で楽しむので、衣を必要以上に厚くしない。(あれ?でも、お願いすれば汁も出してくれた事が…あったような記憶も…ないでもないような気もしてきたなぁ…。あれ?どっちだ!って。)







蕎麦掻・径山寺味噌.jpg

右上:蕎麦掻(値段、忘れました)、左上・下の立派なワサビ&大根おろし、青ネギが先に出てきて、上質で美味しい焼き海苔を「巻いて食べても…」と、おまけしてくれた。至れり尽くせり、とは正にこの事。本当に有難うございます。


右下:径山寺味噌(きんざんじみそ・唯一本物・和歌山、と書いてあり)¥500.-
「一緒に食べて、美味しいですよ」と、瑞々しいきゅうりを、何本も付けてくれたのだけれど、話に夢中になって、つい写真を撮る前に、パクパクっと。







傘亭ー昆布.jpg

「美味しいから食べて」と-おまけ、昆布。

上品で深い旨み。当然、日本酒に凄〜く合う。




 

傘亭焼蕎麦味噌.jpg

次なる、おまけは、京都の白みそをつかった蕎麦焼味噌。そりゃぁ〜美味しいです。





蕎麦うどん




傘亭うどん.jpg

こんな時になって、初めて食べる傘亭の「うどん」

汁の色は、蕎麦汁より薄〜く、昆布の香りも。薬味は、青ねぎとおろし生姜。
麺は、普通にイメージするうどんよりも、ずっと細打ちで少し黄色っぽく、しっかりとした小麦の風味がある。麺の表面がとてもすべらかで、歯にも感じるこのピチピチとした食感は、キュゥッと締まった確かなコシから生まれているのだろう。





傘亭二色.jpg



二色そば(せいろと芥子)¥1300.-




薬味に、山形の辛味大根「ピリカリ」のおろし。



傘亭せいろー麺.jpg

せいろからは、穀物の香り、しっかりとしたソバの旨みがある。今となってはなかなか食べる機会のない(収量が少ないから、希少と言ってもいいかも)、なんと北海道・牡丹ソバだとのこと。特別に栽培農家から分けてもらっているそうだ。こんなルートを、今後誰か受け継ぐのだろうか…。



傘亭芥子きりー麺.jpg

美しい芥子きりには、芥子のつぶつぶが沢山見て取れて、香ばしいコクのある細打ち麺に仕上がっている。








 

蕎麦後



傘亭蕎麦後 柿.jpg

頃合いを見計らって、良く熟れた柿をまるまる1個/人、そして、巨峰を房半分ほども出してくれた。最後に季節のフルーツを出してくださるけれど、今日はまた、量もたっぷり。

有難うございました。




 

■住所新宿区高田馬場3-33-■電話03-3364-5758 ■営業時間1210〜蕎麦の売り切れるまで。(夕方には、なくなります)■定休日金曜(祝日の場合は営業)





posted by 笑門来福 at 14:29| 東京 ☀| Comment(6) | TrackBack(0) | 新宿・豊島・渋谷区 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
すごっ!一体何時間いたんですか!?それもあの傘亭さんで。
ああこんなに飲んでみたい、食べてみたい!
お一人じゃないんですよね?蕎麦屋飲みはサイフに不親切でなかなかできないので、羨ましい。
でも傘亭さん、そういうことなんですね。あのサイズ、じっくり蕎麦を提供するにはちょうどいいですよね。ちょっと駅から遠いので、なかなか行けなかったです。
Posted by 波 at 2012年11月23日 23:58
波さま

いつもコメントを有難うございます。

>すごっ!一体何時間いたんですか!?

写真って便利ですよね、店舗入り口を入店前後に撮ってまして、
その記録によれば、13時〜18時まで居たことに。
でも、ご主人とアレコレお話ししていたので、アッという間に時間が過ぎてしまった感じです。


言い訳になりますが
傘亭さんに伺うと、ご主人の素敵なお話が良い肴になって
少し、いや、随分と飲み過ぎてしまいます。
って、人の所為にしたりなんかして……少し反省しました。

多くの蕎麦屋さんは、酒飲みを敬遠しますけれど
傘亭さんは、両手を広げて歓迎してくれる希少な蕎麦屋だと、今までの経験上確信してます。
まったく嫌な顔もせず、それどころか
あれこれおまけツマミや、論拠の裏付けとなる資料を出してくれちゃって、
カウンターがいっぱいになっちゃう。
こんなやり取りが、傘亭さんの醍醐味の一つかと、勝手に堪能させてもらっていました。

閉店してしまうのは、本当に寂しいです。
Posted by 笑門来福 at 2012年11月24日 10:23
大変ご無沙汰しております。なんだか食べまくっていますねえ〜。
閉店は寂しいですねえ〜。よしおいらが・・・なんてねえ〜。
またその内お会いしましょう。
Posted by iwana at 2012年11月24日 11:48
iwana さま

いつもコメントを有難うございます。

>閉店は寂しいですねえ〜。よしおいらが・・・なんてねえ〜。

いいですね。iwana さまが都内でお店をやってくれたら
行く方にとっては、楽ちんで嬉しいです。

ところで、
今年もそろそろ、新潟魚沼 冬季限定「道楽蕎麦」開店ですか?
Posted by 笑門来福 at 2012年11月25日 10:37
はじめてコメントさしあげます。

傘亭さん。先日、「はっ」と思い立ち、お電話してみましたが「使われておりません」のアナウンスでした。

昨年末に問合せたとき「1月は休業、もしかしたら2月に入ったくらいに少しだけ営業して終わりにするかも」とのお話だったのですが、個人的な多忙もあり連絡せぬままになってしまい、後悔しています。

旅行の話や宗教論、そして、他のお客さんに迷惑のかからない状況であれば原発と放射能の話、は定番でした(笑)。個人的にも楽しくためになる思いだったので、話のネタを仕入れてから出かけたものです。

この記事、ツイートさせていただきましたがよろしいでしょうか。

https://twitter.com/oishiisekai/status/318211216717799424

古い記事にコメント失礼しました。

(よ)
Posted by (よ) at 2013年03月31日 13:08
(よ)さま

この度は、コメントを有難うございます。
記事のツイートも、ご連絡いただき有難うございます。
合わせて、心より御礼申し上げます。


(よ)さまの「傘亭」さんのブログ記事も読ませて頂きました。
閉店を惜しむ気持ちが、文章のアチコチから、
そして、綺麗に撮られた写真の数々から伝わってきて
思わずウルウルとしてきてしまいました。

残念ながら現実的に、閉店はもぅ間違いのないことのようですね。
ご主人が「私も、もぅ〜70ですよ。だから、そろそろねぇ……。」
と仰った声が耳に残っていますのに…。
そんな記憶のいろいろを、そっと心の中にとっておこうと思う人が
(よ)さまや私の他にも沢山いらっしゃる。
それだけ、素敵なお店だったということでしょうか。


(よ)さま 今後も蕎麦が繋いでくれたご縁と思って、
石臼の会とも末永くお付き合いくださいませ。
有難うございました。
Posted by 笑門来福 at 2013年03月31日 13:44
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