新島 繁 著
講談社学術文庫
平成23年5月11日第一刷発行
1100円(税別)
のんびり構えて「そろそろ、買うかぁ〜」と様子見にネット書店を覗いたら、なんと「品薄につき…」の表示が見えて、中古品にプレミアが付いていた。こりぁ〜大変、慌てて馴染みの書店に取り寄せをお願いし、2週間待って!やっとゲットした。
■■まず、ご存知新島繁
■■ 戦後間もなく新宿西口で「郷土そば・さらしな」を経営し評判となる。後に「日本麺食史研究所」を主催した蕎麦の研究家、蕎麦界に大きな大きな功績を残した人である。自分の店を中心とした小冊子、柴田書店「そばうどん」への連載を含め、蕎麦研究著書多数。惜しくも平成13年80歳で没。
中野「さらしな総本店」(中野は南北口に2店舗、田無に1店舗)は、その後に新宿「郷土そば・さらしな」から移転し、家族が引き継いだ店だ。
膨大な資料を発掘し格闘し続け、とてつもない情熱と時間を掛けて研究に没頭した 新島繁さんの遺したものは、とにかく奥行きが厚く深い。感嘆するしかない!圧倒される。馴染みだった編集者は新島繁さんのことを「いくつもの文献で照合し、史実を積み重ねるのが新島先生の基本姿勢。想像で発言することのない方」と、言ったそうだ。だから私達は、書かれたどの本も文章も、それこそ手繰って手繰って、時間を掛けて必ず繰り返し読まなくてはならない。
夢のような初版本を次々に買えれば一番良いのかもしれないけれど、財力もなし、非売品や現在入手不可能なものも多いのだから、初版本関連出版社か…或いは、講談社学術文庫は、「学術をポケットに」のモットー通り、これを皮切りに順に全部文庫化して欲しいなぁ…。
■■蕎麦の事典
■■この度の発行は、平成11年柴田書店から出された新島 繁さん生前最後の著「蕎麦の事典」の復刻文庫本化だ。その名の通り蕎麦の事典である。本文は、「あ行」から順に「わ行」まで、それこそ行儀よく蕎麦用語の説明文が書いてあり、そして「付録」も蕎麦関連文献解題が50音順に付されている。そう、どうみても事典なんだ。
しかし事典という表現方法を使っているのだけれど、この本は新島繁さんの蕎麦へのラブレターなのだ。だからその読者もついつい蕎麦に胸をキュンとさせて、或いは、お腹をクゥ〜と鳴らせて、読んでしまうことになる。重複した意味を持つ用語についてなど、ちょっと説明不足だったり、昔の習慣などはそれ自体に基礎知識を持っていないと、漠としていて理解し辛いところもあるのだけれど、偏愛ぶりによって補われているからか、構わず通して読みすすめば輪郭がボンヤリ浮かび上がるようにもなっているから、ズンズンと読むべし。
勿論本筋の、知らなかった用語や歴史、背景を知れる楽しみも味わうべきである。私など、何度「へぇ〜」と言ったことか。また暫くして読み直せば、また「へぇ〜♪」「へぇ〜♪」「へぇ〜♪」となるだろうことも沢山。
「解説」では片山虎之介さんが、この新島繁さんの蕎麦に懸けた熱い熱い気持ちが、どこから生じたのか考えて見せた。摩訶不思議な魅力を持った蕎麦というものの引力に引き寄せられ「取り憑かれた」と。そして、この引力は、日本中で蕎麦に魅せられている人々が、一様に感じているものであると。
ほぉ〜んと納得してしまったぁ。
しかしまぁ、事典を読んで、電車の中でも所構わずやたらと蕎麦が食べたくなって身悶えする私を、人はなんと思っているのか…。