台風が近付き駆け抜けるという、朝から超荒れ模様。
混雑が予想される展覧会などは、こういう日に限る!ということで、和紙をつかった版画がお目当のレンブラント展へ。目論見が当たって、のんび〜り♪ゆっく〜り観て回ることができ、小腹がすく。
まぁそれで、何処の蕎麦屋にしましょうか? まだ、なんとなく何かを鑑賞したい気分が続くし、久〜〜〜しぶりに池之端「蓮玉庵」に、行くことにした。
■■もぅちょっとした文化財!
■■ なのに・・・勿体無い。
上野駅前すぐにある仲町通りのこの辺りは、ご存知の通り、非常に残念なピンク地帯になっている。昼から呼び込みのお兄さんが道に何人も立っており、せっかくの気分に水を指される。魅力的な老舗がぽつりぽつりと残る界隈は、ぶらぶら散策したい愛する東京の文化財的な地域でもあるのだから、この状況は折角の日本の観光資源を台無しにしているのではないかぁ?勿体無いなぁ。まったく、もぅ。黒門町の伝七親分は、町内のこの体たらくをどう思っているのかしらん。なんてね。
と、まぁ今日は、蕎麦の話から、さんざん脱線しそうな予感。
てなわけで、やっと木鉢会会員 池之端「蓮玉庵」の話し。
創業安政六年(1859年)、創業者の信州出身の窪田八十八が不忍池を眺め、蓮の葉の上にある玉のような蕾にちなみ「蓮玉庵」と、名付けたという。だから、どうもこの年以前から、蕎麦屋としては実質営業していたという説もあるようだ。
斎藤茂吉が「池之端の蓮玉庵に吾も入りつ上野公園に行く道すがら」と短歌に読んでいる他、森鴎外の「雁」や坪内逍遙、樋口一葉ら明治の文豪作品にもここ「蓮玉庵」は登場している。
特に手打ちの名手として知られた先代5代目沢島健太郎さんと大変親交の厚かった、久保田万太郎氏に依る看板と石額(左:写真)は、そのユニークさから貴重とされているらしい。この5代目は、浮世絵蒐集、写真家、俳人としても特異な存在であり、昭和42年には、「故沢島健太郎遺稿集」も刊行された。
手繰る蕎麦に辿り付く前に、まだまだ、古きよき蕎麦屋文化を楽しめる逸話が、たっぷりある。こちらのような老舗といわれるいくつかの蕎麦屋では、歴代の旦那衆(或いは名物女将)がそれなりの面白いポジションにいられたようで、遊ぶというと語弊があるけれど、趣味人としての暮らしを許されるというか、それなりの教養を求めらる空気があったのは確かだ。商いとは別に、各会との交流、文人との交流、風流を解し愛して保護するような気質も尊ばれた。
現在の6代目店主 澤島孝夫さんは、中央大学落語研究会の創設者。故桂文治師匠を大学のクラブ顧問にと拝み倒した実行力のある人で、当然落語にも造詣が深い。また、ジャズ鑑賞にものめり込んでおられたようで、喬木省三(たかぎしょうぞう)」のペンネームで「東京下町JAZZ通り」を仲間3名と共著としている。そして特にデューク・エリントンのレコード収集は日本一とも。「蓮玉庵」を会場に不定期で、スイングJAZZ中心のライブも開催しておられるが、キャパシティーの都合上、大きな宣伝はなし。江戸っ子らしくそれらの行いが、構えることもなく実に軽やかで茶目っ気がある。
こんな事をも含めて、知ってから行くか、行ってから知るか。知らないよりも知ったほうが面白い?と思った方は、以前こちらのブログでも「石臼の会」酔爺さんが紹介した、澤島孝夫さんが書いた、店の歴史、ご自分が見聞きしたり経験された話を載せた「蕎麦の極意」もオススメ。
蓮玉庵のお宝 ネット公開↓緑色の字をクリック
甚兵衛そばのせいろ(江戸末期)と釜揚げうどんの桶(昭和初期)
また、
写真は撮らなかったけれど
店内の蕎麦猪口コレクションも素敵。
■■やっと蕎麦前
■■伺ったのは中休み少し前の14時過ぎ。
こちらの品書きは、実になんというか、少な・・・ミニマム!つまりシンプルである。特に、昼の営業時間の肴となるような「おつまみ」は、基本的には、板わさ¥630.- 月見いも¥630.- やきのり¥400.- の3品のみ。この3品に夕方5時から、つくね¥630.- 玉子焼き¥630.-が加わるものの、居酒蕎麦屋的な店の多くなった昨今では、珍しい存在だろう。
まずは、中瓶ビール¥630.-
お通しに味噌牛蒡
別途この日は壁の短冊に、
特別バージョンのこの2品があった。
鴨の燻製¥630.-
穴子のゆず味噌¥630.-
天せいろそば¥1580.-を「天先」にてお願いした。
御酒(燗・菊水)¥630.- 冷酒 菊水の辛口¥1050.- 菊水の四段仕込300ml ¥1050.- と、日本酒は全て菊水。
私はすぐにビールから切り替えて、四段仕込に。
■■蕎麦と蕎麦汁
■■お声がけにて、天せいろの「せいろそば」を。
蕎麦は、教科書に載っているような江戸前の細打ちでキリリとしまった面構え。水切り具合も秀逸である。
前述「蕎麦の極意」に書いてあったのだが、こちらの辛汁は、蕎麦屋のスタンダードな辛汁の作り方とは、まったく違った調理方法だ。かえしを作らず、出汁にかえしの材料を足して一気に汁を作っているというのだ。なるほど醤油の味や甘みの部分が、それぞれにくっきりと、すっきりと生な感覚である。また、夏場の出汁には、劣化しやすい昆布が入っていない。
それが、蕎麦徳利はつかず、蕎麦猪口にて供される。
蕎麦湯は、ナチュラルなものを、どぉ〜んとテーブル上に大きなやかんで。飲み放題?と思ったら、そんなにたくさんの量は入っておらず、人数前に当然の量。
今は既に伝説となってしまった蕎麦屋 滝野川中里「やぶ忠」村瀬忠太郎が書いた「蕎麦通」の復刻版「そば通の本」サライ編集部に、あの 上野「藪」の鵜飼良平さんが、「解説」を以下のように書いている。
〜〜〜一部抜粋〜〜〜
もともと私の手打ちの技は、この本(=蕎麦通)にも出てくる蓮玉庵の親父(=先代の店主沢島健太郎さん。習ったのは、今から45年以上も前になる勘定のはず)に最初に習ったものですが、蓮玉庵の親父さんは、やぶ忠のご主人(=村瀬忠太郎)とも繋がりがあって、言ってみればこの本の著者(=村瀬忠太郎)は私の師匠筋にあたるわけです。著者が手技を伝えようとしてこの本に書かれたことを、私は蓮玉庵の親父を通して習っていたわけです。
※()書きは、私 笑門来福の勝手な注釈。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
こういう訳だから、今や伝説となってしまった蕎麦屋 滝野川中里「やぶ忠」村瀬忠太郎さんや、「一茶庵」片倉康雄さんら、当代手打ちの名手といわれた夢のような面子の人たちが、こちらと深い交流を持って互いに切磋琢磨していたことになる。もぅそりゃぁ、蕎麦文化遺産と言いたいものではなかろうか。
■■あれこれ
■■今までも何を頼んでも、ダラダラと待たされたことはない。この日も若い花番さんに、終始てきぱきと気持ちよくご対応いただいた。種物の具材で出来上がるようなミニマムな「おつまみ」品書きも、蕎麦屋文化のある一つの伝統的スタイルであり、このシンプルさがこの種の店の真骨頂でもある。「蕎麦前をちょっと飲って、サッと蕎麦を手繰って出る。」店なのだ。老舗であっても、あまりの敷居の高さに敬遠する必要事もなく、肩肘張らずに楽しめる蕎麦屋って素敵だ。書いておきたいことが、もっともっとあった筈ではあるが、どうも筆足らずである。
界隈の環境の悪さに、心から同情しつつ、また別の機会に書き加えることにしたい。
■住所台東区上野2-8-7■電話03-3835-1594■営業時間平日11:30〜15:30/17:00〜19:30/ 日祝11:30〜19:00中休みなし■定休日月(ただし祝日の場合は翌日が休)■アクセス東京メトロ日比谷線 仲御徒町駅下車 徒歩5分、大江戸線上野御徒町駅 A5出口から164m、京成上野 広小路口から徒歩2分
2011年06月07日
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お久ぶりです。
いつも楽しみに御邪魔しています。
やはり、老舗のお蕎麦屋さんには言葉にできない魅力がありますね。笑福来福さんの文章に惹きつけられます。名古屋の蕎麦仲間にも味わつてもらいたいと思いますよ。とかく美味しいかまずいかで判断する人が多い中、老舗の雰囲気とか重みとか教えてあげたいと(思い上がりかも・・)思うのです。
こんばんはっ!
コメントを有難うございます。
ここの所、日本全国いろいろいろいろありましたが、お元気ですか?お変わりありませんか?
久しぶりに遣り取り出来る事を、心より感謝し、嬉しく思います。
>やはり、老舗のお蕎麦屋さんには言葉にできない魅力がありますね。
ほんとに。ほんとうに。
しみじみと。
残ってきたお店は、凄いですね。
>とかく美味しいかまずいかで判断する
蕎麦は懐が広いので、いろいろな物差し価値観を、それぞれに認めて、
良いところを大切にできれば、楽しみが広がってゆくと思います。
私、古き良き蕎麦屋も愛してますから!
なんてったって、蕎麦の花言葉「あなたを救う」ですもん。
癒しの場所、憩いの場所なんですよね。
tannteさまに、お会いしたいぃ〜。
ありがとうございます。私も笑門来福さんやM先生にお会いしたいです。
蕎麦の花言葉「あなたを救う」ですか・・・いい言葉ですね。
今はNHKのおひさまブームでお蕎麦が熱いですね。
先日安曇野に行ったのですがやはり、人気ですよ。
お蕎麦屋さんが軒並みって感じでしたが私は安曇野翁で頂きました。
あいにくの雨で窓からのアルプスの山々は望めませんでしたが美味しいお蕎麦には満足でした。
いつもコメント有難うございます。
>先日安曇野に行ったのですがやはり、人気ですよ。
安曇野へ行ってらしたのですか、いいですねっ!
>お蕎麦屋さんが軒並みって感じでしたが私は安曇野翁で頂きました。
なるほど、NHKおひさま さまさまですね。
また、澄んだ空気や長野の人々の魅力もあるから、一層魅力的に感じられます。
朝の連続テレビ小説枠で、今後10年くらい「おひさま」を、続けてほしいくらいです。