2010年10月15日

西麻布「祈年 手打茶寮」

激しい雨!なんとまぁ〜悪天候(東関東ではJR3〜4路線が止まった)の中、お洒落な西麻布へ向かう。乃木坂の駅に着いた時には、空が少し明るくなってきて、これは幸先良さそう。開店時間少し前に到着できそうだから、もしかすると道に面した蕎麦打ち場の作業を、ちらりと覗く事ができるか?と、お店に急ぐ。



“水”、さらしな生一本
何がそんなに嬉しいかっ、珍しいのか?って…。
ご存知の通りさらしな粉(御前粉とも)は、ソバの実の中心部分。でんぷん質が主体で、粒子が細かい。喉越しや食感が良く透明感があって、軽やかで独特の甘みのある蕎麦となる。 


ところが、さらしな粉は粘りの役割を果たしてくれるたんぱく質が殆どないから、なかなか繋がらない。だから、さらしな生一本(生粉打ち・十割)にするならば、熱湯をつかって水回しをする“湯ごね”にするのが一般的なのだ。難儀なこの打ち方は、TV番組にもなり、NHKの番組「アインシュタインの眼」で以前この湯ごねの「幻の蕎麦 “さらしな生一本”の謎が放映された。


番組に名前の出る昭和の蕎麦聖こと片倉康夫さんの最後の内弟子で、いつも参考にさせて頂いている永山寛康さんのブログにも、さらしな生一本の記事があるので、よろしければご参考に。


このように難儀なさらしな生一本。それを更にさらに、こちらのお店は、水捏ねで麺にするというのだから、凄いと思うのだけれど…どう?
もぅ〜〜何年も何年も前に、この“水捏ねのさらしな生粉打ち蕎麦”を、(多分?)最初に打った長野県上田「手打百藝 おお西」大西利光さんの記事を読んだ記憶があり、添えられた写真にプラスチックの下敷き状のものが何枚も写っていた。腫れものに触るように、このプラ下敷きで粉を扱うのである。今でも手品を見たような不思議な気持ちで、その写真の記憶をたどる。


ということで、
西麻布「祈年 手打茶寮」のご主人は、この長野県上田「手打百藝 おお西」で3年ほど修業をした。残念なことに打つところは拝見できなかったが、おそらく、同じような手法で打っているのだろう。打つところを見てみたいなぁ!!


西麻布「祈年」更科水捏ね製麺.jpg


興味津々で質問する私に、既に打ってあるものを見せてくださった。発泡スチロールトレーに1食分ずつ個別に乗せてあるものを、ワインセラーのような冷蔵庫?から出し、正真正銘!本当にほんとうに水捏ねだということで、ちょっと触らせてもくださった。
ご厚意に甘え1本持ち上げようと麺の端に触ると、ハラリと崩れ…「あぁ〜ごめんなさい(^_^;)すみません。」ぬふぉっ!更科粉は、繋がったフリをしているが、その実つながってない。 その崩れた端を取り除き、パクリと口へ運んでしまう。なんとっ!美味しいっ!!まるで和三盆のよう。品の良い仄かな甘みっ!こんなに美味しく感じるのは、私が蕎麦好きだからか?まるのままの生のさらしな粉の美味しさに参った。




発芽ソバ

蕎麦の丸抜きを発芽させて生地に打ち込む“発芽蕎麦”は、これまた長野県上田「手打百藝 おお西」大西利光さんの名物蕎麦だ。発芽した蕎麦の栄養などに関する細かな数値については、幾つも論文があるし、蕎麦専門誌で度々特集記事が掲載されたり、本にもなったのでそれら専門の文章を読むとして、大まかに言って皆が大好きな?フラボノイド類(ポリフェノール)、ミネラルやビタミン類が、栄養価の高い蕎麦粉と比較しても一層豊富になるという。こういった紙の上での知識はあったものの、実は発芽したソバできちんと打った蕎麦を、まだいただいたことがなかった。






実食っ!
こちらのお店の蕎麦は、すべて生粉(十割)打ちである。なかでもどうしてもいただきたかった水捏ねの更科蕎麦、そして発芽蕎麦。

西麻布「祈年」吟穣二色.jpg


ということで、
吟穣二色¥1,700- 吟白(ぎんぱく・更科の水捏ね)と豊穣(ほうじょう・発芽蕎麦)の盛り合わせをお願いした。



 






西麻布「祈年」吟白.jpg
まず、横長のせいろ 左側に盛られた 吟白(更科蕎麦)を何も付けずに手繰る。透明感のある真っ白な細打ち。キュッと締まった麺に、しっかりとした弾力を感じる。茹でる前のホロリと崩れた麺の姿から、でんぷん質特有の劇的変身である。この甘み、このプリっとした歯触り、技による水捏ねの威力か?粉固有の特製か?判断はつかないけれど、凄い。
山葵をほんの少し麺に乗せ、ちょっと甘めでしっかりした汁にちょこんと浸して手繰れば、より美味しくなった。



 

西麻布「祈年」発芽蕎麦.jpg
次に、横長のせいろ 右側に盛られた豊穣(発芽蕎麦)を。スプラウトの緑色や特有の粘りを想像していたが、ちょっと違った。ブラウンがかった細打ちは、粒感が残って穀物としての風味があり、粘りは然程強くない。出して頂いた塩をパラリとして頂いても美味しく、何か普通の蕎麦とは微妙に違う これがスプラウト部分の香り?というような何かが加わった穀物香?が、癖になりそう。すっかり気に入ってしまった。
薬味は、山葵とねぎ。




   
西麻布「祈年」 定番のもり.jpg
「今日のもりは“新蕎麦”です」と聞き、もぅ〜こうなれば、せっかくなので?冷たい蕎麦の最後の1種類もいただいてしまおう。
定番のもり(粗目挽き)¥1000-

 粗いぞぉ…と構えていた為か?その前にいただいた発芽蕎麦の強い穀物感が後を引いていた為か、始めは強力なインパクトがなく、大人しく感じた。しかし、食べ進むうち、軽やかに若い初々しい香味が押し寄せてきた。基本30メッシュの篩いを使い、それに更にあれこれと工夫を施しているという。

現在のところ!雨の日に訪れ、希望するお客には、無料で大盛りにするサービスをしている。ということで、この定番のもり(粗目挽き)写真は、大盛り。



西麻布「祈年」蕎麦掻きアイス.jpg蕎麦後
そばぁ〜と
夏の名残り、この季節が最後の品書き「蕎麦掻きアイス」\300.-を頂いた。これは、冬になれば他のデザートメニューとの入れ替えを検討しているという。美しい菖蒲の器に盛られた、小豆アイス風味の蕎麦掻きと言ったところか。





あれこれ
  蕎麦徳利には、私の必要量の3〜4倍はあろうかと吃驚する程の量の蕎麦汁が、気前良く入っていた。3種類の蕎麦を手繰ったので???なのか? 余ったものは、どうするのだろう。知人の蕎麦屋では、蕎麦徳利を使っていても一度客席に出した汁は、厨房に戻すことなく、必ず廃棄すると言っていた。多くの蕎麦屋では、同じような考えだろう…だからこの量は、貧乏性の私には、ちょっともったいないようにも感じられた。


蕎麦猪口は、美しく軽い漆器で、修業先 長野県上田「手打百藝 おお西」とも同じ。どんぶりなども大ぶりな「おお西」と、同じ漆器を使っている。



こんなに聞いてもいいかなぁ〜と遠慮しつつも、ついついあれこれ伺ってみると、玄蕎麦の仕入れ先も、自家製粉のその工夫も、使っている石臼も(―私などは見た事もない、珍しい目たてをした粗挽き用石臼も見せて頂いた。つい先ごろ石臼の講座を聞いてきたばかりなので、とても興味深く拝見―)何もかも、包み隠すことなく、若く柔和なご主人が親切に即答してくださり、実物を見せて下さる。きっと“しっかりと修業せずには、真似したくとも真似できない。技があるから”だなぁ〜と感激した。


お洒落な大人の街西麻布にあって、明るくモダンな店内は、ちょっとしたデートにも、女性同士の集まりにも良さそう。品書きによれば、とても興味深く美味しそうな肴もいろいろあるので、次は是非、多品種をいろいろ分けて食べられる人数で伺い、蕎麦前からゆっくりと楽しみたい。蕎麦前好きも、蕎麦打ち好きも、心から楽しめるお店だ。


ごちそうさまでした。


■住所港区西麻布1-15-9ラ・アルタ1F■電話03-6447-2308■営業時昼:土、日、祝のみ11:3015:0014:30ラストオーダー)/夜:18:0024:0023:15ラストオーダー)※日、祝は22:00まで(21:30ラストオーダー)■定休日月曜(ただし休日の場合は翌日)毎月25日の夜(ただし土日の場合は直前の金曜日の夜) ■アクセス  東京メトロ千代田線 乃木坂駅 5番出口 徒歩8分、日比谷線・大江戸線 六本木駅 2番出口 徒歩12分



     次項有お店のHP
     


     次項有別の日の西麻布「祈年 手打茶寮」    
      ブログ内 2010年12月1日の記事へ
      水捏ねexclamation更科生一本見学会

   

     次項有別の日の西麻布「祈年 手打茶寮」
      ブログ内2010年11月23日の記事へ




posted by 笑門来福 at 10:14| 東京 ☔| Comment(16) | TrackBack(0) | 千代田・中央・港区 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ここは 凄い! としか 言いようが無いです。近々行ってみます。それにしても笑門来福さんの洞察力・表現力には 感服致します。
Posted by 興味津々 at 2010年10月15日 15:39
興味津々さま

先日は大変お世話になりました。
コメント有難うございます。

>ここは 凄い! としか 言いようが無いです。
>近々行ってみます。

いいでしょ?こちらのお店。
上田「おお西」で皆さんに御話したのは、こちらのお店の事ですよ。
だから、「石臼の会」食べ歩きツアーとして、企画したいと思っています。
諸先輩・関係者の協力が得られれば、素晴らしい企画になると確信していますので
どうぞよろしくお願いします。
Posted by 笑門来福 at 2010年10月15日 16:56
11月にはここにも行ってみよ〜。
ありがとうございます。(^・^)
ここは23日の初日の夕方かな?
23日は祝日なのでオープンしてますよね?
あ〜、楽しみだ。へ(^^ヘ)(ノ^^)ノ"

今日はトラクターに乗りっぱなしだったのに
この記事読んだら元気になっちゃった〜。

お昼に行こうかな?
Posted by iwana at 2010年10月15日 18:12
”ローカル電車に乗って、食べ歩き”を趣味にしています。
もちろん上田の大西には行きましたけれど
でも、そんなに凄いお店だということは、知りませんでした。
だから、なんだかまた行きたくなりました。
すみません。こちらのお店の話じゃなくって。
Posted by しなの鉄子 at 2010年10月15日 18:44
iwana さま

いつもコメント有難うございます。
東京も気持ちの良い気候になりました。


>23日は祝日なのでオープンしてますよね?
そのようですよ。
祝日なので、昼も夜も大丈夫だと思います。

「発芽そば」を食べたい場合は、
前日から発芽させる準備がある都合で、
その日、用意した分がなくなってしまったら売り切れ御免なので
早い時間に行くか、予め様子を確認しておいたほうが良いかもしれません。
Posted by 笑門来福 at 2010年10月16日 08:30
しなの鉄子 さま

コメント有難うございます。

>ローカル電車に乗って、食べ歩き
わぁ〜とても素敵で、楽しそうですね。
旅の醍醐味が、のんびりと味わえそうです。

私も今週、上田「おお西」へ行ってきたばかりです。
周辺の街並みも素敵で、嬉しくなりました。
近日中に、「おお西」のブログ記事もアップしますので、
どうか読んでくださいね。
Posted by 笑門来福 at 2010年10月16日 08:40
さらしな生一本を水捏ねですか? おどろきました。神業ですね。
先日、ある蕎麦打ち先生の見本演技を目の前で見ました。北海道深川の挽きぐるみの二八でしたが、水まわしとこねは完璧。のしの段階で、突然蕎麦が反乱。つながるのを拒否。ぼろぼろになりました。初めて、こんな凄いのを見て怖くなりました。結果的には、湯捏ねすべきだったかと名人は意気消沈。蕎麦打ちって難しいですね。
Posted by 華麗麺麭(カレーパン) at 2010年10月20日 17:15
華麗麺麭(カレーパン) さま

この度は、コメントを有難うございます。
先日の石臼講座の折にもお世話になり有難うございました。
いつも「こなもんや 三度笠」での幅広いご活躍を、読ませていただいております。


>蕎麦打ちって難しいですね。
本当にこの一言に尽きますね。
そして、
だからまた、蕎麦って楽しいですね。

今後ともどうぞよろしくご指導ください。
Posted by 笑門来福 at 2010年10月21日 09:19
トラックバック遅れてしまいました。
僕も近く再訪したいと思っています。

葛西のお店、外一と二八が同じだと
僕は説明を受けましたよ。
もうかれこれ、つれづれ蕎麦のゆかさんに
教えられて一月前以上になりますが。
Posted by 夢八 at 2010年10月21日 10:55
こんにちは、鈴木年樹です。
先日はありがとうございました。早速読ませていただき、なんかちょっと気恥ずかしいような、です。

片口が大きいので、あまり少ないのはバランスが悪いかと思いちょっと多めに入れておりますが、確かに厨房に戻ってきたときには心が痛むので(笑)、器を変えるか(作家さんにお願いしたものなのでそれもためらわれ)、そのまま減らすか、思案していたところです。

事前にご連絡いただければ、打つところも是非ご覧いただきたいので、またお声がけいただければと思います。5回に1回は失敗するので、そのときはご愛嬌ということで。
Posted by 鈴木年樹 at 2010年10月21日 21:03
夢八 さま

この度は、コメント有難うございます。
また、先日の石臼講座の折にもお世話になり有難うございました。

私も、蕎麦仲間を誘って、再訪をしたいと思っています。
行けば必ず「すごいっ!」と、蕎麦仲間内でも話題沸騰すると思い、
皆さんの反応がとても楽しみなんです。

葛西のお店の件、
あっ、そう言ってましたか・・・。


今後ともどうぞよろしくご指導ください。
Posted by 笑門来福 at 2010年10月22日 07:51
鈴木年樹さま

この度は、コメントを有難うございます。
また、先日は美味しい御蕎麦、そしていろいろとお話をお聞かせくださり有難うございました。

お汁の容量の件、
貧乏性の私の勝手な思いに、早速お気持ちをお聞かせくださるなんて、
本当に本当に恐縮です。
それぞれのお店でお考えがあるかと思いますのに、生意気なことを言ってしまい、すみません。

また是非、伺います。
どうかよろしくお願いいたします。
Posted by 笑門来福 at 2010年10月22日 08:05
いいですねぇ〜〜〜っ!
蕎麦って!
休日を見繕って、東京西麻布へ必ず行きます。
Posted by R. at 2010年10月22日 22:03
R. さま

コメントを有難うございます。
本当ですね。蕎麦って本当にいいですね。
お出掛けになられた感想など、またコメント頂ければ幸いです。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
Posted by 笑門来福 at 2010年10月23日 16:24
笑門来福さまの西麻布「祈年手打茶寮」のお店の紹介が絶妙なので一層興味深々。23日の訪問の
楽しみが膨らみます。
Posted by シリウス at 2010年11月21日 14:09
シリウスさま

おはようございます。
いつもコメント有難うございます。


「祈年」ご主人のご厚意で、貴重な一日になること請け合いです。
あちこちで、目から鱗がポロリと落ちる瞬間が観られるのでは?と想像しています。
だから、私もとてもとても楽しみです。


ただ、お天気がどうも…予報では雨?になりそう??ですねぇ。
今から、テルテル坊主を作る事にします。

当日もどうぞよろしくお願いたします。
Posted by 笑門来福 at 2010年11月22日 08:59
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック