■■居酒蕎麦屋
■■ 店内の様子は…。
伺ったのは平日夜21時半をまわった頃。サラリーマンの聖地新橋では、ほろ酔い加減の人も行き来する時間帯だ。さて、黒地に白抜き文字で「黒いそば」と書かれている迫力の暖簾をくぐる。ガラガラガラっと扉をスライドさせると、いきなり狭い玄関の三和土に乱雑に脱ぎ捨てられた靴、靴、靴。店内は民芸調というかぁ…日本贔屓で金襴緞子好きな中国系アメリカ人の親戚をもった出島のバテレン(それっていったい何者?)が、日本民家を自力で楽しく改装したような(それってどんな?)シャンデリア有りの、カラオケ機械有りの、畳に椅子・テーブル有りの、座卓有りの、座布団有りの、金糸の入った帯地のクッション有りの、金ぴかの招き猫有りの、日本人形有りの、アイドルのポスター有りの、めくるめくミラクルワールドが広がっているではないか。カラオケをやっていないときは、演歌や流行歌?っていうのかなぁ…が、堂々と流れている。一歩踏み入れるなり、これは濃いぞぉ〜っと思わず身構える。
そのミラクルぶりに、ついつい店内を見回していると、カラオケもすっかり佳境に入って肩を組み大合唱する御常連?に対し、大御女将とおぼしき方が「これ、もぅ少し静かにしてちょうだいよぉ」「うるさいよぉ」「何度言わせるんだぁ」と、年老いたおっかさんが純朴な元青年を叱るように頭をポカリと叩いた。不思議なことに叱る方も叱られる方もわりに笑顔である。そっけない客あしらいのようでいて、時にこういう采配のできるお母さんがいるから、御客も遠慮なく寛げるのだろうか?なにしろここは繁盛している。
■■蕎麦前
■■ ざっくばらんに
気の合う仲間と…。
この時は凍えるように寒かったので、迷わず「熱燗」をお願いした。アルミのちろりにカンカンに熱せられた日本酒が即到着して、キューっと一杯。ちょっと(いや、とても)堅茹での枝豆と温泉卵がお通し。「湯とうふ」の薬味をよぉ〜く覚えておいてね。
■■蕎麦
■■ 湯気が、ほわぁ〜っと。
店に置かれたコピー物には、本派京のそば(本店・京都御苑)あつもりそば とある。更に読み進むと、そばは健康食…穀物タンパク質には少ない良質のトリプトファン・スレオニン・リジン等を多く含みこの他ルチンも多いため毛細血管を強くし高血圧による脳出血や血管の損傷を防ぐということで、高品質の健康食品といわれております。当庵のそばは、原材料を充分に吟味し、含まれている有効成分を損なうことのないよう品質を常に保っております。秘伝のタレと共に本派竹邑庵のあつもりそばをご賞味ください。とつづいた。営業時間の欄には、始業時間はあるものの終業時間の記載がない。その後埋めようと思ったのか、空欄がぽっかりと残っている。このアバウトさっ!すごいなぁ。そして、東京の多くの蕎麦屋では、蕎麦汁のことを「つゆ」と呼ぶのが普通だが、ここでは「タレ」なんだぁね?と、興味深く読んだ。
しかし、何故か品書きそのものには、蕎麦の「そ」の字もでてこない。「???」詳しい方にお聞きすると、なんでも京都市上京区椹木町通烏丸西入養安町に本店があり、そことほぼ同じ真っ黒な「あつもり」「追っかけ皿そば」「そばしゃぶ」を出しているらしく、それは最初にだされる品書きとは別にラミネート加工された大きな写真付きの品書きに書かれているという。うぅ〜〜ん、面白い。益々興味が湧くではないか。
ちょっと真面目になって…書き続けると、そもそも今日の目的は、この店の「あつもり」。
昔々のその昔、蕎麦切りの形になっても、現在のようにソバ粉を水で練って薄く延ばし、細く長く切った麺を、茹でて冷たい水でしめ、汁にちょこっと付けて、つるっと手繰るというのが当たり前!ということでもなかった。
寛永20年(1643年)「料理物語」を極一部抜粋してみれば、……めしのとりゆにてこね候て吉 又はぬる湯にても 又とうふをすり水にてこね申事もあり 玉をちいさうしてよし ゆでて湯すくなきはあしく候 にへ候てからいかきにてすくひ ぬるゆの中へいれ さらりとあらひ さていかきに入 にへゆをかけふたをしてさめぬやうに 又水けのなきやうにして出してよし……
寛延4年(1751年)「蕎麦全書」日新舎友蕎子では、予按ずるに、惣じてそばの製し様、家々に色々の仕方有りておなじからず。
と断りを入れておいて、いろいろと試してみた詳細を書くので情報共有してくれと言い
…夫よりぬる湯の中へ入れ、早速取出し亀の甲ざるの中へ入れ、むらなくうすくして熱湯をよく懸け、其上に布巾を懸け、亦其上に塗物の盆か折敷など蓋にして暫時置て、重筥の中へ布巾を敷、是へ移し入、上にも布巾を懸け、蓋をして小蒲団に包み、小半時斗り置候へば能熟し乾きてよし。
などと「蒸しそば」状のものが記録に残っている。
実は、4〜5年前だったかなぁ…の「めん産業展」で、この蒸し蕎麦状の「あつもり」の再現物をいただける企画があった。喜び勇んで頼んでみたのだが正直なところ「?」であったし、解説してくださった方も「分からないことが多いからねぇ…話題性はある…?でしょ。ハハハ。」であったと記憶している。何より私自身「蕎麦全書」を原文で読み切れないので「?」マークが増すばかりであったので、詳細な記憶が飛んでいる。
平成18年になって出版された「蕎麦全書」現代語訳 新島繁校注 藤村和夫訳解を読んで、一つ二つ「?」マークが減ったけれど…まだまだまったく正体が分からない。
ともあれチャンスがあれば、蒸した麺を蓋つきの容器に入れ暖かいまま食べる蕎麦というものを食べてみたかった。
そしてこの日、(※新橋「竹邑庵太郎敦盛」は、史実に基づいた再現をしているとは言っていないし、客であるこちらも、勿論そうであるとも思っていない)ひょんなことから、新橋「竹邑庵太郎敦盛」で「あつもり」を食べる機会に恵まれた。

先に運ばれた“汁”じゃなかった“タレ”にまずびっくり。先程見た「湯豆腐」の薬味とほぼ同じ青ネギ(九条ネギ)が、これでもかっ!てな具合に、てんこ盛りに入った蕎麦猪口に、とろろと卵そしてわさびが予め盛り込まれており、これをグルグルとかき混ぜた後、徳利で運ばれる蕎麦汁…じゃなかった蕎麦タレをドボドボっと入れ、更に混ぜるのだそうだ。江戸前の蕎麦汁のイメージで、猪口に少しばかりの汁を注ぎ入れていたら、花番さんに「もっといっぱいいれたほうが美味しいよ」と、たどたどしい日本語でご指導頂いた。真っ黒に見えるそのタレは、意外に濃くなく甘〜いもので、ジャブジャブ使って食べるように作ってある。これも結構日本酒のあてになってしまうなぁ…と思ったりもして。
手繰ってみると、モソモソッ ゴワゴワッ としていて、咬んでググッと喉に落とす。この麺の色とググッとした感じは、湯島「手打古式蕎麦」を思い出させたが、食感は初めてもものだ。先述べのタレとよく合う。慣れ親しんだ江戸蕎麦とは全くの別物だけれど、違う食べ物として、これはこれで面白く良いと思う。
蕎麦界の御意見番 藤村和夫さんに、「つるつる・かめかめ」の話を聞いたことがある。「つるつる」の江戸蕎麦に対して「かめかめ」の田舎蕎麦の話だ。噛めば噛むほど蕎麦の香りと旨みが押し寄せてきて、田舎蕎麦の醍醐味は別にあるとのことだったが…。香りはともかくとして、この歯ごたえの凄い京風(「本派京の蕎麦」これって京風なの?)を田舎蕎麦と呼ぶのは、ヘンな感じなので、この「かめかめ」は湯島にも似ていることでもあるし、古式蕎麦とでも呼んでおくのだろうか。
いやぁ〜

残念ながら、こちらのお店は閉店しました。
■住所港区新橋3-15-6■電話03-5473-8803■営業時間11:00〜15:00?頃、17:00〜23:30?頃■定休日土・日・祝■アクセスJR・東京メトロ新橋駅 徒歩5分
たった今東京から戻ってきました。
もう〜。
でもイベントでソバリエのMさんと会いました。
3月にこられるそうです。
今から楽しみです。
待ってま〜ス。
いつもコメント有難うございます。
イベントお疲れ様です。
私はこの3日間身動きができず、
浅草に伺いたいと思いながらも叶いませんでした。
Mさんが、ひょっとして・・・と思っていましたが
やはりそうでしたか。無事、コンタクトできて良かったです。
お蕎麦が繋いでくれる細く永いご縁。楽しいです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
でもこの間、東京のそばも楽しもうとしたのですがそんな時間はなく、というよりらーめんととんかつと釜飯を浅草で・・・。
浅草って何か美味しい物がありますねえ〜。
いつもコメント有難うございます。
イベントの時って、
限られた時間の都合もありますから、食事も拠点のところからの距離やら、チャチャっと食べられるものだったりの制約があって、アレコレ全てを楽しむこともできなかったことと思います。
東京の蕎麦は、また別の機会にでも楽しまれますように。
それはそれで、
そりゃぁ〜もぅ〜楽しいけれど、その分やっぱり疲れますよね。
そして、一段落ついてペースが戻ってから、またまた疲れが…ですから、どうかご自愛ください。
浅草って…凄く美味しい物がいっぱいありますね。
同じくらい、そうでもない物?もいっぱいありますけれど。
そうでもない物の値段が、とても高かったりすると
「これで、この値段?!ぁ〜〜〜やられたぁ!」となります。
私なども今まで「あぁ〜=3」と、何度ため息をついたことか。
私もあの店には夜1回、昼1回行っていますが蕎麦屋と言うより居酒屋又は民謡酒場と言う感じですよね、でも置いてある刷り物を見ると妙にこだわっているような事を描いてあるよね。
私もずいぶんいろんな蕎麦屋へ行ったけれどあれほど不思議な雰囲気の蕎麦屋?は珍しい。
ときどき気になって行きたくなるのだ。
金ぴかの座布団に欅のテーブル、そばにはコテコテの中国風の椅子や屏風、壁のなげしには祇園の芸姑の
名入りの団扇、長嶋茂雄の来店時(それも京都の
本店)の古い写真、ボーズのスピーカー、頭が混乱で変になりそう、ちょっとましなそばを食べるなら昼に行った方がいいね、そばや汁のことを聞こうとしたら「聞かないで」と言われた。
ランチタイムを避けて(でも中休みあり)行けば
ゆっくり食べられるだけまだましな熱もりを楽しめる。
それにしても京都の店も一度見てみたいものだ。
コメント有難うございます。
>ときどき気になって行きたくなるのだ。
そうらしいですね。
そう言う方を何人も知っていますから,
皆さん同じように感じるのでしょうか。
だからあの不思議ワールドの常連さんが存在するのですね。
かく言う私も、
あの夜は幻だったのではないかと、フッと感じるので
もぅ一度行って、あの“面白さ”を再確認したいです。
常習性がある?なんだか癖になるらしい…
ちょっと怖いような…でも、蕎味深深さまお勧めの昼に又行ってみます。