たとえ老舗であっても、敷居を高く感じさせない軽やかさも、蕎麦屋を愛さずにはいられない理由の一つ。6年ほど前に改装した「やぶ久」も、間口は狭いがすっきりとして気さくな風情が好ましく、時〜〜々思い出したように伺う。サラリーマンで大混雑する昼時・退社時刻直後には気が付かなかったけれど、空いていれば(空いている時間に入ったのは今回初めてかな?)一人で入っても落ち着ける店ではないか。木枯らしふく都会の雑踏が嘘のように、静かに流れるスタンダードジャズと暖められた店内が心地よい。計らずも入ったこの時間はなかなか良いぞぉ。
でもあれれ?前回訪問は、夏…だっただろうかぁ?さっぱりと梅おろし蕎麦(1000円札でおつりが来たような気が…たぶん)を食べたのだけれど…、12月の今は品書きに見当たらない。次の用事を思うとチャチャっと食べなくてはならないが、そうとうに空腹である。それなりのボリュームが欲しいなぁ。丼ものもあるし、何故かカレー系が人気メニューであるらしいのだが、うぅ〜ん、大好きな牡蠣せいろ¥1260.-にしようか、舞茸の天ざる¥1470.-にしようか、ずっと以前、こちらの店の宴会メニューの鴨鍋に舌鼓を打ったことを思い出し、ガツンと空腹を満たしてくれそうな鴨せいろ¥1522.-をお願いした。
2F テーブル20席、3F 掘りごたつ20席の状況は分からないものの、1Fテーブル14席の先客は2名のみ、この時間であるし、きっと素早く出してくれるだろう。
■■蕎麦と蕎麦汁
■ そんな事を思っていると、「どうぞごゆっくり、召しゃがってください。」と、鴨せいろが運ばれてきた。うん。早い。そして予想どおり空腹を満たす濃厚な熱々のつけ汁である。藪系どまんなかの濃く甘辛いどっしりとした辛汁に鴨の油がでて、テラテラと光っている。一口舐めてみると、濃厚な旨味の中に柚子の香り。結んだ三つ葉も、香ばしく焼き色をつけたねぎも、い・い・か・ん・じ。鴨は厚めのスライスが4〜5枚、フワフワのつくねが1個、大盤振る舞いだ。
北海道産そば粉に福井産粗挽き粉をブレンドした九一そば。伝統の足踏み製法でコシをだすと、どこかで読んだ。足踏み?うどんならしばしば聞くが、蕎麦で伝統の足踏み?空いているときに聞いてみたいと思っていた。今日はチャンスか。でも、いつものお爺さんがいない。かわって50歳代と思われる男性が一人花番&帳場を守っている。あのお爺さんは何処?お元気ならば良いのだけれど。蕎麦の上に乗ってきた海苔は…いらないんだけどな、と思いつつ手繰ってみることに。香りや味に強いインパクトはないけれど、大人しく上品にまとまりのある蕎麦。水きり加減も良い。いつ来てもずっと変わらない蕎麦。夢中で食べきり見回すと1F店内無人と化し、だぁ〜れもいない貸切状態。静かだ。
■■湯桶と蕎麦湯と薬味
■ 一人まったりする時間はないけれど、鴨の旨味のたっぷり出た汁をどうしても飲みたい。奥へ行って「すみませ〜〜ん。蕎麦湯くださぁ〜い」と言ってみる。先ほどの帳場にいた男性が、飛び跳ねるように厨房から湯桶を持って走り出てきた。顔には、まさかそんなに早く食べきっちゃったの?と書いてある。妙齢の御婦人が?(うそっ!いい歳のメタボオバサンがです。はい。)そんなに早く?と。そして妙に恐縮している。
蕎麦の薬味は、オーソドックスな本山葵とねぎ。蕎麦湯は、いわゆるナチュラル系。作為なし。しかしそれを注いだ鴨のつけ汁は、素晴らしいお椀の一品に変身し、「おぉ〜っ、旨っ!」である。しっかりした本鰹節の出汁が奥の方で「ここに、しっかりいますよ」と。最初はかなり濃いので、またまた蕎麦湯を注ぎ…薬味のねぎを追加したり、江戸前の七色を入れたり、また途中から、卓上の京都「黒七味」に変えてみる。熱々の蕎麦湯は、鴨の油でなかなか冷めないから、ふぅ〜ふぅ〜としながら?自ずと、時間は無いのに気分だけはゆったり。あぁ〜満足。
そうそう、こちらの店の湯桶は素敵だ。この姿にうっとりする。美しくそれはそれは凛とした艶のある漆黒。蓋に金文字で店名がはいり、角の面取り?具合も好きだ。欲しい。横から口を出すのが得意な私としては、湯桶をコレクションするに最も相応しい人間なのではないかと…馬鹿を言ってみると、これ貰えないですかぁ?なのだ。この品のある艶っぽさ、思いつく限りの蕎麦屋の湯桶で一番っ!とランキングしたい。
■■おまけに…帳場で
■ この日は、たぶん3代目であろうあの帳場のお爺さんにお会いできなかった。素敵な味のある名物お爺さん。お元気でいて欲しい。留守を守って?シャキシャキと立働く男性は、会計時に「蕎麦湯が遅くなりまして、申しゃけございませんでした」「どうかまたのお越しをお待ちしております。」と、江戸弁で深々とご挨拶くださった。急いでいた私が、ちっとも気にならないことに、この心配り。日本橋で100年商うことの凄さを垣間見たような。だからってわけじゃぁないけどねぇ、あたしゃまた、何度でも来ますよ、なのである。
■■写真
■ それにしても、私の写真は恐ろしくひどい。この日も、花番さんに撮影をご快諾いただき、携帯で撮って…でも、撮れたものは、またまた悲惨だ。モダンで小さな日本橋「やぶ久」の風情が、全く伝えられない。載せないことにする。湯桶だけは、見て欲しいと思っていたら、ぐるなび該当ページの左隅に、小さく湯桶の写真が載っていた。ご参考までに。
■住所中央区日本橋2-1-19■電話03-3271-0829■営業時間平日 11:00〜23:00(22:30 L.O)、土曜日11:00〜21:30(L.O.21:00)■定休日日・祝 (金曜日または月曜日が祝日の場合、土曜日は休業)■アクセスJR東京駅 北口 徒歩4分、東京メトロ日本橋駅 B7出口 徒歩1分
別の日の日本橋「やぶ久」ブログ内記事へ
なってきましたね。
おいしいお蕎麦が食べたいと思いつつ、出不精なもので
なかなかお店へたどりつかないのですが、紹介してくださる
お店には、なんとしても一度はいってみたいです。
いつもコメント有難うございます。
今年も、もぅ年越し蕎麦を考える時期ですね。
ほんと早いですねぇ。一年があっという間。
確か去年も、
maimuさまはちゃんとご自分で打ったと記憶しています。
今年も楽しみましょう。待ってます。
ところで
都立大「のるすく」早くいかなくっちゃっ!
蕎麦職人 永山寛康さんが…。
早くはやく。
「やぶ久」の鴨せいろ、美味しそうですね!黒の湯桶も素敵ですね!
最近私も鴨汁に凝っていまして、鴨肉を焼いて出た油を入れて鴨汁とか鴨南蛮にして食べています。
鴨は道場でいいのが手に入りますので便利です・・・ということで今年の年越し蕎麦も鴨汁にします。
笑門来福さんの年越し蕎麦は何そば?
今年も残り少ないですがよいお年をお迎えください。
また、どこか楽しみにしています。
いつもコメント有難うございます。
ですよね。黒の湯桶すてきですよね!
あれ、実物を手にとって見ると、もぉ〜うっとりです。
ところで、
tannte さまの作る鴨汁や鴨南蛮、美味しそうです。
>焼いて出た油を入れて
そうそう、ほんとそうですよね。
この鴨の油って「ごちそう」、濃厚な旨みがグンとアップしますもの
更に、道場でいいのが手に入るってことは、
tannte さまの打つお蕎麦と相まって、
美味しいことが約束された無敵な年越し蕎麦になるわけですね。
食べたいっ!
いつもコメント有難うございます。
ご多忙なのに…「やぶ久」へ足をお運びになったのですか。<m(__)m>
小さく狭いお店でも、すっきりとしていて落ち着く感じ
迎える側の程よい緊張感が感じられる磨き上げられたガラスや漆器。きりりと挿された一輪。静かに流れるスタンダード。
デザインのプロから見ても、「及第点」でしょうか?
昼の混雑時に行くと、またちょっと違った表情なんですが、でも、それは流石老舗といった感じで、混んでいても嫌な思いをしたことがありません。こういうことが、長年積み重なって、信頼につながるのではないかと。御蕎麦の味も実際より美味しく感じさせる効果もあるんじゃないかなぁ〜(^_^;)と、失礼なことを言ってみたり。
そばすきーさまのお勧め店も、是非ご紹介ください。どうぞよろしくお願いいたします。楽しみにしています。