早いもので師走。王子神社では、冬の日を浴び黄金色に輝く銀杏(東京都指定文化財・天然記念物)の葉が、強い北風にカラカラと音をたて、「早く早く」と用を急かす。忙しく舞う落ち葉に、蕎麦屋巡ってブログ書いてる場合じゃ無い!?大掃除しなくちゃ!と、理性に基づく公式見解を述べつつ足を速めるものの、「越後屋」の前を通れば「今日から、柚子切り」と店先にあるのが目に入り…観念して暖簾をくぐる。
12時すこし前、1階はほぼ満席。少し遅い七五三を祝う大家族が、可愛いフワフワの羽飾りを付けた女の子と、慣れない草履ももどかしそうに2階の座敷に上がっていった。思わず眼を細める1階の客一同。私がキョロキョロと空き席を見廻していると、すぐ傍の方が「ここで良ければ、どうぞ」と相席を申し出てくださった。下町の気さくな客層。チャーミングだった3代目の人柄のように、いつ来ても居心地の良い愛すべきお店。
■■ 蕎麦と蕎麦汁
■ 4代目蕎麦(生粉打ちと月替わりの変わり蕎麦)¥1480.-、と牡蠣蕎麦¥1,260.-をお願いする。
すぐに4代目蕎麦。2色の蕎麦はどちらも細打ちだが、ほんのり黄色い柚子切りの方が、生粉打ちよりも更にもぅ少し細打ち。お目当てだった「柚子切り」を、汁なしで手繰ると…箸が進んでペロリと平らげそうになる。柚子の香り、季節の香り。生粉打ちは、十分に水切れがいい。
3代目も一呼吸おく香り立つ水切り加減を好んでいた。牡蠣蕎麦、柚子切りと食べていて時間が経ってしまったので、ほんとうは、すこし日本酒を垂らしたいくらい。こちらも最初は汁なしで摘まみ、後から辛汁をちょんと浸けて手繰る。4代目の蕎麦も美味しい。
四代目蕎麦
奥が、生粉打ち
手前が、今月の変わり蕎麦・柚子切り
器は、いまいち?だが
中身は、良い。
蕎麦汁は、3代目が亡くなって少し変った。大好きだった濃くて円やかに一体となって纏まった辛汁が、4代目坂場正康さんになり少しシャープになった。老練な技を感じる汁だったのが、若くなり少し醤油の角を感じる。出汁も軽い。どちらが好きか、好みはそれぞれだろうが…私は少し寂しい。
■■ 薬味と蕎麦湯
■ 小さなおろし金と山葵、ねぎ。ご相席いただいた方は、山葵の名産地伊豆の生まれと言い、私がすりおろす間、この山葵を特に褒めていた。山葵の香りがとても良い。
こちらの店は、原則的に蕎麦湯は作らない。自然な釜の湯だ。この日は、サラサラ。
3代目坂場正則さんのお通夜の席では、葬儀委員長を務めた鵜飼良平さんの背中に隠れるようにして、小さく肩を震わせていた女将。11月の越後屋寄席の時には風邪をひいたと会場に姿を見せず、心が痛んだ。伺ったこの日も気丈に花番を務めてはいたが、テーブルに来くると、やはり3代目の話になってしまう。悲しみが癒えるのには、もう少し時間が必要だ。次回1月15日(木)寄席の予約をお願いして店を出る。
■住所北区王子本町1−21−4 王子「無識庵 越後屋」■電話03-3900-5904■アクセスJR京浜東北線/東京メトロ南北線 王子駅 徒歩8分■営業時間平日昼11:30〜14:30 夜17:15〜21:30/日祝日昼11:30〜15:00 夜17:00〜21:30■定休日水・第3木曜日■寄席開催日時奇数月第2木曜・18時開場、19時開演〜21時頃迄(要予約)
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ラベル:蕎麦