2008年11月14日
王子「無識庵 越後屋」
11月13日(木)19時〜木戸銭2500円、越後屋別館にて行われた第149回越後屋寄席。この寄席が、開催されるかどうか…気を揉んだ。席亭であった肝心の坂場正則3代目「越後屋」店主が、9月に急逝してしまったのだ。いつもの金屏風の脇に飾られた坂場正則さんの笑顔の写真に、悲しい気持ちが込み上げてきて……これは不味いと、他のソバリエの皆さんから離れ一人入口脇に座わることに。寄席でメソメソしている客などいないよ、普通は。
落語家と同じくらい話の上手かった坂場店主は、噺の始まる前に、途中の休憩時間に、蕎麦の説明を入れたり軽妙な冗談を言ったり、我々を存分に楽しませたものだ。この日、若旦那がほんの一言挨拶に立った。「どうなるか分かりませんが、よろしくお願いします」ぽっかりと開いた大きな大きな穴。存在の大きさを今更ながら強く感じる。
■■ 寄席
■ いつものように、進行…したかな。
柳家わさび
まくらに、これまた大好きだったのに、先日亡くなってしまった筑紫哲也さん多事総論の話をちらっとしたりなんかして…、嫌だよ、まったく、またまたウルウルしちゃうじゃないか。世の中に必要な人が、こうして次々亡くなってしまう。何故?
■動物園 アルバイトで、虎の着ぐるみを着て檻の中で本物の虎のように動くという見世物になる仕事を請け負う。何故かショーが始まると檻の中には、ライオン。デスマッチと言われ驚く男にライオンが「心配すな、俺も雇われた」。今日のわさび君は、しっかりとしてきた…なんだか急に大人になったように感じられる。
柳家甚語楼
■味噌蔵 名をケチ兵衛という味噌問屋の主人。嫁をもらうのも子供ができるのも無駄と考えているケチ。妻が里帰り出産し、実家の祝いの席に出席し帰った一夜の話。店では番頭以下全員で、「帳面をドガチャカドガチャカ」工作して大酒盛り。予定より早く帰った旦那が、酒盛りに激怒しているところへ、注文していた豆腐田楽が配達される。豆腐屋が「焼けました! 焼けました!」、香ばしい味噌田楽の香りに、旦那「いけない、うちの味噌蔵に火が入った」。
途中休憩 蕎麦の時間
柳家さん生
■夢金 欲の熊蔵という船頭が、寒い寒い雪の降る夜、船をだせば「酒手をはずむ」と言われ、浪人と娘を船に乗せる。船頭は、「百両を持っている娘を殺して川に沈め、山分けにしよう」と浪人にそそのかされる。共犯を承諾したと見せかけて、川の中州に浪人を置きざりにし、娘を救う。大店の娘を助けた謝礼をマンマと貰うが、みな夢だった。 レパートリーのまだ少ないであろう柳家わさびを別にして、今日の演目は二つともケチの話。途中休憩で、柳家さん生に促されて演壇に上がった若旦那を見上げ、坂場正則店主の面影を探すが、心がザラザラとして落ち着かず、良く分からない。
■■ 蕎麦と蕎麦汁
■
今まで年一回、9月か11月の寄席の蕎麦は“新蕎麦”だった。去年は9月が芥子(だったかな?)で、11月が外一の新蕎麦。その他の月には、それぞれ季節の“変わり蕎麦”だ。その時々に混ぜ込んだ“変わりの具材”の解説も楽しく、照れ隠しによく「蕎麦にスプレーで色を付けた」と冗談も言っていた。毎週違う種類の変わり蕎麦を、一年以上出し続けることができると言っていた坂場正則店主の“変わり蕎麦”は、この店の名物と言ってよかっただろう。軽妙な洒落と老練な蕎麦・蕎麦汁が、魅力だった。
明治41年創業の越後屋の3代目だった坂場正則さんは、竹を割ったような性格の母(坂場正則さんの母親評)に、蕎麦屋のいろはを教えられたと言っていた。ものごころついた時には、兄を差し置いて?蕎麦屋を継ぐと決めていたと。しかし、この度のことは、まだ本人も亡くなったことに気が付いていないのではないか、と思われるほどの急な出来事。直前まで元気に仕事をしていたようだし、亡くなる前の週には旅行にも出掛けていたと、誰かに聞いた。各種イベントでお会いしても、若い打ち手に交じって、それはそれは楽しそうに率先して蕎麦打ちをしていた。こんなに突然のことだから…4代目にすべてを継承できていたのだろうか。老練な技術の完全な継承は、思いのほか難しいのかもしれない。
この日の蕎麦は、細打ちの二八。今年は9月に既に新蕎麦をだしているので、3代目がご存命ならば“変わり蕎麦”をだしたのではないか。笹切りか…菊切りあたり…。
亡くなって直ぐの忙しさ、初めての寄席の席亭、若旦那は変わりを出す気持ちの余裕がなかったのだろうかと、今後はずっと普通の蕎麦になってしまうのだろうかと。汁も少し変っていて…帰り道がなんだかいつもより遠く、寂しく感じられた。
次回は2009年1月15日(木)19時開演。3代目坂場正則さんが、楽しみにしていた第150回目の区切りの回で、お正月の越後屋寄席。恒例のじゃんけん大会はあるのかな。下町の蕎麦屋らしく粋で賑やかな正月の寄席になるよう、次回は私も元気に伺いたい。
■住所北区王子本町1−21−4 王子「無識庵 越後屋」別館2F■電話03-3900-5904■アクセスJR京浜東北線/東京メトロ南北線 王子駅 徒歩8分■営業時間平日昼11:30〜14:30 夜17:15〜21:30/日祝日昼11:30〜15:00 夜17:00〜21:30■定休日水・第3木曜日■寄席開催日時奇数月第二木曜・18時開場、19時開演〜21時頃迄(要予約)
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