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さて、「土山人」オーナーの渡邉榮次さんは、「玄庵・江戸東京そばの会」そば教室の第8期生だ。本店のある芦屋(行ったこともないけれど)のもつ関西セレブ的町のイメージと、そば教室のある東京の下町立石の町の魅力が正反対であるのも手伝って、打つ蕎麦や汁の味がゴージャスなのか粋なのか、関西風なのか江戸前なのか、2007年10月のオープン時から伺ってみたいと興味津々であった。そんな訳で池尻大橋「土山人」へ。この日は渋谷駅から菅刈小学校前のバス利用で店に向かった。しかし元気のある時は、田園都市線池尻大橋駅から目黒川に沿って10分程歩くのが便利だろう。地下にある店舗の入口は、ちょっと気を付けていないと見逃してしまう。
店内に入れば、右手直ぐに打ち場があるが、小さな窓で覗いてみなければ中の様子はうかがえない。進むと一枚板のカウンターがあり、更に奥には地下に広く掘った庭が明り取りにもなる気持ちのよい空間が広がる。地上のお店と解放感に遜色がない。お洒落な焼き物の床タイルや、どっしりとした土物の器が、落着きを与えてくれる。芦屋の奥様御用達の店とは、こういうものなのかなぁ〜と、つい周りをキョロキョロ。平日の昼13時過ぎということもあって、先客は1組だけで、「どちらでも、お好きな席にどうぞ」と。
しかし少々違和感があるのは、椅子とテーブルである。応接セットのような深く腰掛けるソファーは、食事には不向き?かも。この日たまたま我々は皆揃って和服であったので、深く沈みこんでしまうと袂や帯が崩れ、具合が悪い。仕方なしに、ちょこんと前方斜めに腰を掛けたが、食べ辛く、腹筋の鍛錬にはなったがなんとも不自然な体制であった。
総席数32席。厨房は隠れており中の陣営はわからないが、花番は男女1人ずつ。昼御前(\1500.-)、のコース内容について伺うと、野菜料理二種・季節の野菜の天ぷら盛り合わせ、そしてお蕎麦を「田舎」「せいろ」「かけ」から選ぶとのこと。「本日の変わりは?」と聞けば、「柚子切り」と。おぉ〜夏の真っ盛りのこの時期に柚子切りとは。秋も深まり黄色く色着いた実を使う「柚子切り」は冬至の頃の代表的な変わり蕎麦。今の時期となると柚子胡椒を作ったり薬味のように使うまだ青い柚子を使っているのだろうか、爽やかな印象だ。今この「柚子切り」は、貯蔵された去年の黄色い柚子の「黄橙色」か、若い青い実の「青緑色」か、どんな趣向のものなのか興味を持って伺うと、まだお店に慣れないアルバイトの花番さんなのだろうか、「わかりません」とのお返事。しかしそんなこんなのやり取りのお陰で品書きの吟味には、十二分に時間を使えた。
結局、代わって表れた他の花番さんからの説明で、お昼のコースも全員が同じものをお願いしないと対応していただけないとわかり、注目の「柚子切り」は断念。謎は謎としてそのまま残る。コースとは別建てで関西風出し巻き玉子(¥930.-)を追加して、全員 昼御前(蕎麦のみ3種類をそれぞれ選んだ・¥1500.-)をオーダーし、まずはエビス生ビール(\700.-)で喉を潤すことに。
最初に運ばれたのは、エビス生ビールとお通し「蕎麦チップ?」。釉薬のかからないどっしりとしたカップに、クリーミーなビールの泡がたち、チップは軽〜く揚がって、ついつい手が出るタイプ。
■御昼のコースすぐに始まった昼御前(¥1500.-)の野菜料理二種は、小鉢に入った七つの野菜(じゅんさい・インゲン・パプリカ・わかめ・ゴーヤ・茄子・芋茎)のジュレと湯葉一片、そして山芋の岩のりあえをホンの少しずつ。サイコロ状に切った山芋は少し温めてあり、甘みが増しほっこりと柔らかい。家でも簡単につくれそうなので、皆さん口々に「今度やってみよう。岩のりもいいし、瓶詰めの雲丹でも美味しそう」と、流石料理好きな奥様方の集まりだ。
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続く季節野菜の天麩羅は、オレンジパプリカ・蓮根・モロッコインゲン・大浦牛蒡・カリフラワーだ。食材のせいか?フリッターにも近いふんわりとした衣のせいか?何やら洋風感のあるお洒落なもの。これを塩でいただく。それにしても料理の運ばれるペースが速い。 あぁ〜日本酒っ!と思っていると、小さな応接テーブル?いっぱいに並んだ器を前に、奥様方もビールをもう一杯追加しようかと相談を始めた。便乗のチャンス到来だ。
だが、そんな気持ちを封じるかのように、早くももぅ〜「かけ」が運ばれた。残念なことにこの展開に、ビールの話は立ち消えとなり、怒涛の勢いでコースは進み〆に。ほんのこころもち太めの蕎麦と透き通ったしっかり出汁で塩を感じる甘汁。これぞ関西風の真骨頂だろう。江戸前の「かけ」とは別の品物だが、こちらはこちらで素晴らしく美味しい、東京っ子の私も何故かしらホ〜ッとする味。
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↑か け ↑生粉打ちせいろ
↓田 舎
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「田舎」は、ほんのりと薄茶色で細打ち。品の良い「田舎」で、いわゆるワイルド感というか野趣は感じられず、都会の洒落た遊びを感じる麺。噂で聞いていたゴージャスな星の入った麺ではなかった。3種の蕎麦の中では一番好きだと思った「せいろ」は生粉打ち。細打ちで旨味と甘みのある上等な蕎麦らしい蕎麦。美味しい。
品書きによると、ソバの産地は北海道・山形・茨城・富山・福井・大分・鹿児島とある。この日がどこのものかは伺う機会を持てなかった。
■汁と薬味品書きにあった汁の説明によると、“冷たいおつゆは枕崎産の一本釣りのみの本枯節の厚削り一等の利尻昆布を使用。お蕎麦(そば)につゆを少しつけて食べた時にお蕎麦(そば)を引き立てるようなバランスを考えて仕込んでいる。温かいおつゆは、魚本来の旨みを出すために、天日干しを中心にした節を使用し、透明感をもたせながら味もしっかりとしただしに仕上げている。太切りのお蕎麦(そば)の香りとだしの風味が協調できるように心掛けている。”とあった。
変わり蕎麦のお汁はいただけなかったが、その他の汁は共通してどれも昆布の印象の残る関西風の出汁としっかりめの塩分を感じた。
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田舎用 せいろ用 かけ用
それぞれの蕎麦のための薬味は、写真参照。
特に興味を持ったのは、「かけ」に供された七味(江戸で、七色唐辛子。関西で、七味唐辛子)のこと。「土山人」の「かけ」には、この香り高い「黒七味」がよく合った。
ところで、関東圏の人間のイメージでは、やげん堀・八幡屋磯五郎などに代表される七色の色は「赤」に近い。香りは陳皮や紫蘇を主体とする複雑でありながら爽やかなもので、芥子や胡麻、菜種などの風味がある。それが「土山人」でだされた原了郭「黒七味」は、色がその名の通り「黒」で、香味は山椒を強く感じ繊細で爽快なものであった。内容物は似ているが、それぞれの分量割は全然違うのだろう。どちらもそれぞれ美味しい。料理に合わせて使いたい。
それにしても現在、日本全国概ね同じ「七味」の名前で呼ぶ人が多いのは、よろしくない。江戸では「七色」だ。この呼び名の混乱は、うろ覚えながら、第二次世界大戦の混乱の中、物価統制令だったか、或いは価格等統制令だったかの時に、当時の管轄が「七色」と「七味」の名称・価格を一緒くたに扱い取り決めたことによるものである、と確か習った覚えがある。
「土山人」訪問の直後、たまたま家人が京都出張となったことを良いことに、「七味家」と「原了郭」の黒い「七味」を土産に所望した。両方とも味は微妙に違うものの確かに系統として“黒く山椒の風味“のカテゴリーに入る。 雅を解さない我が家の冷蔵庫の中“やげん堀・COOP・七味家・原了郭”の4種類の七色・七味の消費量順は、「あぁ〜っ、やっぱり」である。家人曰く「高かったんだぞぉ、香りが飛ぶ前に使って!」。料理の味付けが江戸前なのだから仕方がないかもしれないなぁ。
■蕎麦湯ゴージャスな星を混入させトロトロに頑張って作ったポタージュ系。蕎麦の旨味が溶かし込まれて嬉しいが、舌に粉感が残るのは、ちょっと残念。
■甘味コースのお値段に、300円を追加することでセットにできる本日の甘味は、「くずもち」であった。まだ固く青い桃をくずで包み込んで、冷たく冷たく更に冷たくしてある。桃にもくずにも、うっすらとした酸味の他味がない。




それにしても、なにもかもが、一気に運ばれた感があった。注文まではひどく時間がかかったのに…。私は蕎麦前をゆるりとやりたかったなぁ〜とも思ったが、(沈み込むソファー+和服=腹筋鍛練)というこちらの事情もあったことだし、妥当な時間だったかもしれない。
奥様方のお店評は、なかなか上々であった。とりわけ関西文化の洗礼を受けた方や、西の地で生まれた方の中には、「今まで行った蕎麦屋の中で一番」と仰る方もあった。私は生まれも育ちも東京だが、支社の多さや社員の採用地で、関西系と思われている企業の東京本社で働いていたことがあり、その頃から「“うどん”は大好きだが、“蕎麦”はねぇ…、あの真っ黒なお汁が嫌」という西の方々の声を、不思議な気持ちで聞いていた。だから誤解が解け?「蕎麦も美味しかった」と聞くだけで、とてもとても嬉しい。関西でも増えている本格的蕎麦屋の今後益々の健闘を祈りたい。
■品書き御昼のコース昼御前(野菜料理二種・季節の野菜の天ぷら盛り合わせ・お蕎麦)\1500.-、季節の野菜御前(野菜料理三種盛り・季節の魚介サラダ・だし巻き玉子・お寿司・天ぷら盛り合わせ・お蕎麦・甘味)\3200.-、
夜のコース夜会席(先付け・創作そば・小鉢三種・だし巻き玉子・鴨ロース煮・季節の天ぷら・お蕎麦・甘味)\4800.-、季節の会席(要予約・先付け・蕎麦寿司・変わり蕎麦・小鉢三種・だし巻き玉子・鴨朴葉焼き・季節の天ぷら・お蕎麦・甘味)\6000.-、
冷たいお蕎麦細挽きせいろ\890.-、粗挽き田舎¥1050.-、越前おろし蕎麦\1260.-、辛み大根おろし\1260.-、とろろ\1260.-、梅しそ\1260.ー、なめこおろし¥1380.-、穴子天せいろ¥1790.-、海老天せいろ¥1890.-、
温かいお蕎麦かけそば¥890.-、すだちそば\1150.-、とろろそば¥1260.-、 エビス生ビール¥700。-、鳳凰美田¥780。-、東洋美人¥780。-、しま千両¥650。-、醸し人九平次¥850。-、など
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