深大寺さんの蕎麦観音
偉いえらいお坊様が、千日行や五穀断ちなどの修業をする際、一握りのソバ粉を携帯し、水に溶いたそれをホンの少し啜りながら修業を続けるのだと、このほど天台宗浮岳山深大寺住職に就任された張堂完俊さんにお話を伺った。
その時は、ほぼ完全栄養食であるソバは、厳しい修業のお役にも立つのだなぁ〜と、蕎麦っ食いとしては、有難いような嬉しいような、また何故か誇らしいような気持ちで聞いた。
そしてこの夏、あれこれ辛い責務が重なり気の滅入る中にこの猛暑である。東京も35度超の記録更新中とか。日頃、ダイエットは明日から〜と意味もなく能天気な私も、夏バテなのかどうにも気力体力が枯れて、食欲がない。喉を通したいのは水ばかりの(ビール(^_^;)含む)、自然にダイエット状態である。
嫌な仕事は溜まってゆくばかりであるし、もうすぐ祭りだぁ!し、なんとかエンジンをかけなければいけない。そこで、修行僧よろしくソバで栄養補給しようと思い立つ。ソバリエらしく?食事が摂れないときは、とろりと濃〜い蕎麦湯を作って飲み始めた。これが効果てきめんで、腑抜けた体に力が蘇える兆しを感じた。この調子でゆけば、美味しい蕎麦なら、つるつるっと喉を通るだろう。
というわけで所用を片付ける道々、頭の中に東京蕎麦屋地図笑門来福版を広げ、句読点か一里塚のように、無理をせずに行ける最も近い美味しい店を目指すことにした。食欲なんて四の五の言わずに、なんとしてでも食事を抜かないのがまず第一歩なのだぁ〜。これでいいのだぁ〜。
ところが次の目的地に着こうというとき、震度4程度の地震があるという予報が入ったとか、乗っていた地下鉄が止まった。安全が確認されるまで動かせないと車内アナウンス。知らなかったなぁ。電車が止まると冷房も止まるのだ。暑い。蕎麦屋に寄る時間を見込んで用事を一つ終わらせたのに…なんだか出鼻を挫かれる。ありゃぁ?神様が「蕎麦屋は明日からにしてみれば?」と言っているのか?と弱気になる。いつ動くのか、外は35度、たとえ少ない時間を過ごすにしても、駅近くの蕎麦屋が絶対に快適であろう。
やっと地上に出れば、想像通りピーーカン照り。強く濃い影が真下にできて、皮膚がジリジリと焼けるようだ。しかし狭く暑いムンムンの密閉車内から比べるとまだいい。蝉の合唱と競って我慢我慢と唱えるように歩いて3分。店先に涼しげに水を打った志村坂上「よし田」の前に立つ。あぁ〜広々とした日本家屋がオ・ア・シ・スに見える。何よりも冷たいビールが飲みたい。
■蕎麦前厨房ビュー(オーシャンビューってのは、よく聞きますが)カウンターの隅に腰を下ろすなり、「ビールお願いします」と言う。カラカラに干乾びて喉の皮がくっついているようだ。直にだしてくださった生ビール(\600.-)の半分くらいまでを一揆飲みしてしまう。ほぉ〜。軽く薄い素敵なグラスに満たされたビールが、五臓六腑に沁みわたり〜うぅ〜美味しい。
人心地付いて、やっと品書きに思いを巡らす余裕ができた。どうしようかなぁ〜、どうしよう。お通し(\500.-かな?)に、だしてくださった小さな小さな小鉢のサーモンともずくをつつきながら…大人しくせいろで様子をみるのが順当だろうなぁ…、最近食べたいと言う欲求がなかなかおきない胃の辺りをさすってみる。
手前小鉢は、お通しのサーモンともずく酢
すると…厨房の店主が、カウンター越しに声を掛けてくださった。なんと1ヶ月程前に伺った時のことを覚えていてくださったのだ。そして更に「ソバリエさんなんですか?」と。びっくり仰天とはこのこと。何で何で何でお話をしているうちに、どうもこのブログを読んでくださっていたことが分かり、顔から火がでて、しどろもどろと言い訳のようなことを口走る。およよ。勝手に発信しておいて言うのも変だが、ネットは恐ろしい!?
どうりで?私がカウンターに着いた時に、釜前に向かって「あまり冷たくないのを」というような事を、店主がささやいている気がした。機会が許せば、お願いしようと思っていた事なので、私の強い思いこみで耳が勝手に聞いた気がする“そら耳”かとも思ったが、あぁ〜そうだったかと合点がゆく。
こうなると、急にアドレナリンが噴出し?たのか?口が勝手に注文をした。「海老天せいろ(¥1500.-)を、天先でお願いします。」最近よく、考えるより先に口が動く。危ない。でも、折角だから(何が?)ということで、先に出していただいた天麩羅で、生ビール(\600.-)をもう一杯。ビールはいくらでも美味しく喉を通るなぁ〜。
天麩羅は、海老(ブラックタイガー)2尾、茄子、さつまいも、かぼちゃ。とりわけたっぷりの大根おろしが嬉しい。1週間ぶりくらいに食べるしっかりとした食べ物。食欲減退の悪循環の中、食べなくてはと思っていても、毎日冷たいものか、せいぜいスープや汁ものばかりで、箸が進まなかった。だがこの日は意外にあっさりと、とてもとても美味しく頂けた。特に大好物の茄子は、油や天つゆと相性が抜群とは言うまでもないけれど、おかわりをしたくなってしまった。こんなに美味しく頂けたのは、やはりプロが軽やかに揚げた天麩羅だからだろう。(自宅で揚げていたら、とてもこうは行かない。横に横にと育ち盛りの家族の分量を揚げたら、もぅ〜調理が終わった頃には油に胸が焼け、自分は食べたくなくなってしまう。)
前回伺った時にブログに書いた穴子の揚げ方について、再び店主とおしゃべりし、鍋の話になる。今日のこちらの天麩羅鍋は、たっぷり油の入るプロ仕様。家庭でかくも大量に油を使うと、その後の処理が面倒で困る。コンパクトな機材で、そこそこ本格的な味が家庭の領分ということにして、自分は逃げに入りつつ、あれこれと伺った。
■蕎麦さて今回の蕎麦は、茨城県産常陸秋蕎麦を二八に。製粉は信頼できる製粉会社に任せてあるそうだ。打ち手は、店主ともうひと方で、江戸前仕様のきりりとした細打ちに仕上がっている。嬉しいことに、今日の化粧水は私好みに冷たすぎないものにしてくださった。野趣豊かな蕎麦の風味がよく感じられて、一枚の蕎麦を存分に堪能できた。
■蕎麦汁、薬味と蕎麦湯バランスも良く品のよいお汁。薬味はオーソドックスに、ねぎと山葵。蕎麦湯はナチュラル系。
■品書き冷たいおそば/せいろ 国内産石臼挽き製粉¥700.-、重ねせいろ せいろ二枚重ね\1300.-、卸しせいろ 辛味大根\850.-、胡麻だれせいろ 自家製胡麻だれ\1000.-、そばとろ 大和芋のそばつゆ仕立て¥1100.-、ぶっかけ 五種の薬味\1100.-、天せいろ 芝海老と帆立のかき揚げ温つゆ仕立て¥1400.-、海老天せいろ\1500.-、鴨せいろ 蔵王合鴨の温つゆ\1600.-、穴子天せいろ 朝〆穴子の一本揚げ¥1700.-、
温かいおそば/花まき 海苔の香りをお楽しみください\800.-、山かけ 大和芋のそばつゆ仕立て¥1100.-、刻み葱そば 九条葱と揚げ玉のおそば\1100.-、鴨南蛮 蔵王合鴨の温そば\1600.-、海老天麩羅そば\1500.-、穴子天そば 朝〆穴子の一本揚げ\1700.-、(大盛り200円増し)
蕎麦味噌\420.-、そばがき\850.-、胡麻豆腐\650.-、たまご焼き(江戸前)\850.-、出汁巻き(関西風)\850.-、鴨陶板焼き¥1600.-、
八海山本醸造¥750.-、出羽桜純米吟醸¥900.-、黒龍純米吟醸\900.-、磯自慢吟醸\850.-、獺祭純米吟醸\850.- 宴会コース\5500.-、会席コース¥7500.-
■住所板橋区小豆沢2-15-8■電話03-3966-5522■営業時間11:00〜14:00、17:00〜21:30■定休日水・第2・4火■アクセス都営三田線志村坂上駅A1出口徒歩3分
2008年08月12日
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