な・な・なんとっ!俄かには、信じられない。ホントに本当? ぎゃぁ〜嬉しい。ご主人は、修業先である長野上田「おお西」店主、大西利光師匠の想いを受け継ぎ、師匠に恩返しをする為にも、水捏ね更科生一本が本当に本当にであること。またそれが広く認知されることを願っているそうで、だから、実際に打つところを見せても良いというのだ。私は思わず「本当ですかっ!いいんですかっ!?」と聞き返してしまった。
でもでもでも、小心者の私は直ぐに、そんなに凄いものを私一人で見るのは、余りにもったいないと、思うようになる。長野上田「おお西」にこの秋行った折、同席の江戸ソバリエ達もこの神業の話で盛り上がったし、その晩の蕎麦談義でも、長野上田「おお西」と西麻布「祈年」の更科の事が、繰り返し話題に上ったから、皆が見たがっている事も知っている。これで私一人が独占してしまったら、恐ろしい天罰も中りそうである。ということで、日頃お世話になっていて興味があるだろうなぁ〜、いや絶対見たいだろうなぁ〜と思う方々と、過去の「祈年」記事にコメントを入れて下さった方、信州蕎麦紀行でこの話に前のめりになっていたメンバーを中心に石臼の会の中にも声を掛けて、極々内輪の見学会をする事にした。
当日は、ご主人のご厚意で、解説付き全行程を見せて頂けるばかりか、実際に参加者が体験もできるよう、店内に特別仕立ての打ち場を設えてくださった。もぅ〜涙がチョチョギレル(この言葉、死語?古っ(^_^;))。唯ただ感謝感謝!!なのだ。有難うございますっ。
■■本来、繋がらないハズ
■■そもそも、1行目でも書いた過去記事の通り、更科粉は粘りの役割を果たしてくれるたんぱく質が殆どないから、おいそれと繋がらない。だから、さらしな生一本(生粉打ち・十割)にするならば、熱湯をつかって水回しをする“湯ごね”にするのが一般的なのだ。
それを敢えて、水捏ねにするのだから、まず本当に水では繋がらないという事を確認しなくてはならない。普通当然その確認は必要だろう。でも、少なくともこの日の仲間は、もぅその事は嫌になる位、悲しくなる程知っている。水捏ねにチャレンジして玉砕したり、その場に居あわせたりした経験を持つ者、その性質を良く知る者ばかりだ。だから、“難儀なんだ”と言う事の確認・説明は時間節約の為に飛ばした。
■■工程の説明と体験
■■で、いきなり工程の説明。ニコニコ柔和な笑顔のご主人が、まず簡単な手順を教えてくれる。「水回し → 捏ね → 延し → 切り」。うぅ〜〜ん。ここまで聞くだけならば、「そりゃ知ってる」ということだ。
続いて、ご主人は全て事もなげに解説し、謙虚に、水分量だけが難しく後は長野上田「おお西」で暫く修業すれば自然に誰でも打てるようになると言うのだけれど、こりゃ実際には…やっとやっと身につくことだろう。簡単にはできそうもない。
ということで、実際に更科100%粉を鉢に入れて、ご主人の御指示のもと数名が、工程ごとに作業を体験させて貰う。
体験者は本来、精鋭(有段者が何人もいますから)が挑むと良いのだが、皆の眼がジィ〜〜〜と見つめる中ということもあるのか、慎み深い方が多いから、実力者なのに辞退される方もいらしたりして、結果?私のような半端者のお笑い要員が、ちょこっと触らせてもらえる場面も発生した。
で、その感触をと言われれば…最初「サラッさら」、途中「ぐにゃぐにゃ」で、後半触れば「ホロリッ、パラッ」だった。あぁ〜私って役立たず。
にもかかわらず、ここで敢えてなんとか説明しようとすれば、えぇ〜と。
● 水回しのポイントは、加水量。
「サラッさら」のところへ、ビシッと量って、一気加水!これ以上出来ない位手早く、水を全体にゆきわたらせる。
● 捏ねは、「ぐにゃぐにゃ」を腫れものに触るように、或いは赤ちゃんを湯浴みさせるような気持ちで優しく扱う。湯捏ねの更科は、マッチョな肉体労働系動作だけれど、比べて水捏ねは繊細で軽やか。だからひょっとすると、女性にも向いているかも?
● 延しは、いきなり最終形を目指し、大胆に。特別な道具、プラスチック下敷き状の物と、クレープ屋さんなんかが使っている長いパレットナイフ的な物を駆使して、タタミにもっていく。
● 切りは、こま板無しで、キャベツの千切りを切るような調子…に見えた。「ホロリッ、パラッ」を、発砲スチロールの舟に乗せるまで、息を止めるようにして皆がみつめる。
ご主人と一緒にやってみても、そりゃぁ〜そりゃ難しい。特別な道具類も必要だし、普通の蕎麦打ちとは、まったく違う!別物だ。こんな方法を思いつき、やってみた長野上田「おお西」店主 大西利光さんの、とてもとても柔軟で自由な発想に仰天する。独自の蕎麦世界を切り開いた苦労は、凡人には想像もできない。
■■通しで見学
■■ご主人が、最初から全行程を通しで見せてくれた。あの時見たプラスチックの下敷き状の物は、こうやって使ったんだぁ…。私は、ずぅ〜〜〜と、ずぅ〜〜と前に、長野上田「おお西」の大西利光さんが、この水捏ね更科生一本を紹介する文章と写真を見た記憶があるので、まさにその細切れになっていた古い記憶が、更科粉と一緒に繋がってゆく喜びも同時に味わった。

繊細でいて、とても思い切りのよい作業の流れを見て、細く綺麗なご主人の手に妙に合点もいった。ということで、ご主人一人だと、あっという間に打ち終わった。興味深くって、繰り返し繰り返し何度も何度も見てみたい…けれど、ここで見学・体験の部が終了。
貴重なものを見せて貰ったぁ〜っ、凄かったぁ〜っ。本当に有難うございました。
■■蕎麦前
■■まず、乾杯をしなくっちゃ。こんな好機を与えて下さったご主人に感謝し、まずビールで乾杯。それから日本酒 宮城・日高見 超辛口吟醸、秋田・刈穂大吟醸飲と飲みすすむ。
特設蕎麦打ち台を撤去して、美味しい肴を出してもらう。これらは、店内を見学会場→飲食スペースに大転換するこの日の段取りでも、すぐに出せるものを見繕ってもらった特別な組み合わせの一皿。普段は、それぞれを別々に品書きの中に見つける事が出来る。

左から、山口県・白銀 板わさ、千葉・九十九里 背黒鰯の胡麻漬け、クリームチーズ西京漬け
(写真:こなもんや三度笠 華麗麺麭さま
http://blogs.yahoo.co.jp/mana_big )

鴨くわ焼き
(写真:こなもんや三度笠 華麗麺麭さま
http://blogs.yahoo.co.jp/mana_big )





■■蕎麦
■■ いよいよ手繰る。あの触ればホロリと崩れる繊細な更科の打ち上がりから、茹でられてプリッと弾力のある麺に劇的に変わったところを、見学の皆さんがしっかりと体験する。繋がったフリをしていた更科が、本当に繋がるのは、釜の中なんだ。
この日打つところを拝見した水捏ね!更科生一本「吟白蕎麦」と、発芽の「豊穣蕎麦」二色だ。食感に優れた透明感のある真っ白な更科蕎麦と、芳醇な旨みのある発芽蕎麦の対比は、とても贅沢で欲張りな組み合わせ。
この凄さが分かる方々に、是非食べてみて貰いたい品書き。

おまけに、発芽したソバの実も見せて貰った。美しい薄緑色の丸抜きから、小さな小さな芽が出ている。可愛いぃ〜なんだか愛しく見えるのは、私だけ?
コレで風味も栄養もアップした美味しい蕎麦を仕立てる。
蕎麦そのものの美味しさを味わうもり。結局、ここに始まりここに終わるのかもしれない。

冷かけそば
(写真:こなもんや三度笠 華麗麺麭さま
http://blogs.yahoo.co.jp/mana_big )
上品でさらりと軽やかな冷たいお出汁を器にはって、十割が泳ぐ。美味しいお汁に、蕎麦が別の形で生きるようで、また素敵な一品。そろそろお腹がいっぱい…と思っていたはずなのに、一口手繰れば もぅ一気にツルツルっと完食。
ご馳走様でした。
ご主人、女将さん、祈年スタッフの皆さん
そして、ご参加くださった皆さん
本当に本当にありがとうございました。
■住所港区西麻布1-15-9ラ・アルタ1F■電話03-6447-2308■営業時昼:土、日、祝のみ11:30〜15:00(14:30ラストオーダー)/夜:18:00〜24:00(23:15ラストオーダー)※日、祝は22:00まで(21:30ラストオーダー)■定休日月曜(ただし休日の場合は翌日)毎月25日の夜(ただし土日の場合は直前の金曜日の夜) ■アクセス東京メトロ千代田線 乃木坂駅 5番出口 徒歩8分、日比谷線・大江戸線 六本木駅 2番出口 徒歩12分


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※こちらでは、当日の動画も公開されています。

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